都市農業を見る目が変わったことで見えてきた農業の多様性
近年、ほとんどの市町村で、市民農園といわれる取り組みが行われています。農地が貸し出され、一般の市民がそこで楽しみながら野菜を育てたりする農園です。最近では、募集があるとすごい倍率になるといいます。
また、援農ボランティアという活動も増えてきました。農家の農作業を手伝い、売り物となる農作物を育てるのです。なかには、この経験をきっかけに、本格的に農業に従事する人も出てきています。
こうした活動が盛んになってきたのは、それまでは土いじりを嫌っていたような都市生活者が、作物を育てたり収穫することに関心をもち、自分もやってみたいと思うようになったからですが、それとともに、農地に関する政策の転換があったのです。
2015年に制定された都市農業振興基本法では、市街地に農地があることの多面的な価値を認め、各自治体に対して、計画的に都市農地を保全する施策をとることを義務づけました。「宅地化するべきもの」から「あるべきもの」へと位置づけを変更されたのです。
また、後継者難などの厳しい状況を反映して、20年くらい前までは、血縁以外には農地を任せるようなことはしなかった農家が変わってきています。
例えば、以前、私自身が埼玉県南部の農家を調査したときには、企業に農地を貸しても良いという農家は、1%もいませんでした。しかし最近では、しっかりと農作業を行い、信頼できるとわかれば、任せても良いという農家が増え、企業が農業に参入することができるようになってきているのです。
現在は、野菜作りが中心ですが、今後は水田を借り、稲作を行う企業も増えてくるかもしれません。複数の農家の水田を借り、大規模な稲作が行われる可能性もあると思います。
また、都市農業に限らず農村でも、農家自身が法人化する動きがあります。いままでは、どんぶり勘定の家族経営でしたが、家族一人ひとりにも給料を支払う、会社組織のような形に整えようとしているのです。
すると、援農ボランティアを体験したり、大学の農学部で学んだりした後、農家に「勤める」という若い人も増えるかもしれません。
こうした農業のリニューアルは、農業の継承という意味で、それが企業であれ、農家とは無縁だった若い世代であれ、彼らを惹きつける可能性があるならば、良い方向に向かっているといえるかもしれません。
しかし、一方で、農家が地主化していき、自分自身は農業にたずさわらなくなっていったとき、いままでの農村のコミュニティがどうなっていくのかは、未知数な部分です。もしかしたら、地主化した農家の人たちは、農村を出て都市で暮らすようになるかもしれません。
そのとき、新たに農村に入ってきた企業や、別の地域出身の若い人たちが、その農村に何百年にもわたって継承されてきた文化や伝統までも継承することがあるのか。そういったことは、今の段階ではわかりません。もしかすれば、そこにまた新たな縁が生じることになるのかもしれません。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。