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流行語大賞選びでわかる、日本語のしたたかな柔軟さ

小野 正弘 小野 正弘 明治大学 文学部 教授

日本語のもつ柔軟性が新語や流行語を生む

小野 正弘 新語があれば死語もあるというだけでなく、様々な意味で、日本語は柔軟性に富んだ言葉だと思います。

 例えば、「今年の新語2018」の第2位は「モヤる」です。「映える」と同じように語尾に「る」をつけて動詞化した言葉ですが、その基になっているのは、不満や不愉快を表す「モヤモヤ」というオノマトペです。「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に入った「ボーっと生きてんじゃねーよ!」の「ボーっと」もオノマトペです。

 オノマトペという言葉はもともとフランス語で擬音語を意味する言葉ですが、日本語では擬音語に加えて、「モヤモヤ」や「ボーっと」のような擬態語としても発達しています。情景を感覚的に伝えることで直接的に心にアクセスし、共感性を高める言葉として使われているのです。

 このオノマトペがおよそ4000~5000語あることは日本語の大きな特徴のひとつで、日本語の柔軟性の現れでもあると思います。

 そもそも、日本語には漢字があり、ひらがながあり、カタカナもあります。オノマトペの表記にもカタカナが多く使われます。さらに、漢字には訓読み、音読みがあります。こうしたバリエーションの多彩さは、日本語が外来語を取り入れてきたからです。

 さらにいえば、その時代、時代で、力の強い言語にすり寄り、そこから大量に言葉を取り入れるのです。例えば、古代であれば中国語。いわゆる大航海時代にはポルトガル語。幕末になると、ドイツ、フランス、イギリスなどのヨーロッパの言語。そして、戦後以降はアメリカの英語です。

 外来語を取り入れ始める頃は、本当に厳密に学びます。奈良時代の漢字の辞書がいまでも残っていますが、当時の中国の辞典を正確に引き写しており、忠実に学ぼうとしているのがわかります。

 ところが、日本人の面白いところは、徐々に自分勝手な言葉を作り始めることです。

 例えば、「大根」は、もともと「おおね」と言っていました。大きい根だから「おおね」です。でも、音読みでは「大」は「ダイ」、「根」は「コン」と言う。だったら、「大根(おおね)」を「ダイコン」と呼んでしまえ、という感じです。だから、現代の中国人に「ダイコン」を中国語で発音しても通じません。和製中国語なのですから。

 このような例は枚挙にいとまがありません。現代では、和製英語が氾濫しているのは皆さんもご存じでしょう。

 それだけではありません。例えば、「cool」という英語に「な」を付けて、「クールな」と、まるで日本語のように使ってしまいます。ちなみに、「~な」は非常に便利な語尾で、これを付けると、大抵の言葉が日本語化してしまいます。これも、日本語のすぐれた柔軟性のひとつです。

 一方で、「かわいい」とか、「やばい」など、意味が変わってしまっている日本語があるという指摘があります。しかし、その言葉の中核的な意味合いはそれほど変わっていないのではないかと思います。

 例えば、「やばい」は、自分のコントロールが効かなくなる、自分ではどうしようもないという状況を表す言葉です。それは自分にとってあまり良い状況ではないので、悪いことを表すようなときに使ってきました。

 しかし、もともと、良いことだとも、悪いことだともいっていないのです。だから、「このスイーツ、やばい」などと言うとき、それは、そのスイーツが美味しくて、自分で感情をコントロールできない、どうしようもないくらい美味しいというわけです。

 このように、言葉の使われる意味合いが多少変わったり、表す対象が変わっても、中核の意味を引きずっていることを、私は尻尾を残すといっています。

 オノマトペを発達させたり、外来語を取り入れても自分勝手に言葉を作ったり、日本語化させたり、意味合いが多少変わっても尻尾を残す、こうした柔軟性があるからこそ、新語や流行語は毎年生まれるのだと思います。それが話題になり、多くの人々が興味、関心をもつことは、とても健康なことだと思います。

 また、軽妙さや新しさに注目する言葉選びがある一方で、世相の重い部分、暗い部分に着目する、日本漢字能力検定協会が行っている「今年の漢字」も話題になります。

 こうしたバランスを上手くとっている日本人の言葉感覚が保たれている間は、私は日本語に対して危惧を抱くことはまったくないと思っています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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