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2019.04.24

子どもに会うための共同親権制度では本末転倒

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共同親権制度の前に、子どもに対する責任を尽くす仕組みが必要

平田 厚 実は、欧米の共同親権制度も、様々な仕組みの下で成り立っています。そもそも、社会基盤にキリスト教のカソリックがあるフランスなどでは、神に誓った婚姻関係を解消することはできないという概念があります。

 そこで、教会や市役所などの第三者が介入し、子どもに対する責任を共同で尽くしていくことを話し合い、それを神やコミューンに誓約することで、初めて離婚が成立します。

 この話し合いができないような高葛藤の場合は、問題のある親の親権を剥奪することもあります。例えば、DVや虐待、また、親権の濫用などがあれば、すぐに親権を剥奪する制度があり、そのうえで共同親権があるのです。

 先に、日本でも、離婚の際に話し合い、子どもの養育について共同で責任をとっていく夫婦も多いと述べました。そういう両親にとっては制度がどうであれ、実質的には共同親権なのです。

 逆に、裁判所に持ち込まれるような高葛藤の離婚の場合は、共同親権制度の欧米でも、例外的に一方の親権が剥奪され、実質的に単独親権になることもあり得るのです。

 つまり、いま、日本で起きている議論は、単独親権制度によって親権を失った一方の親が、子どもに会う権利を得るために共同親権にしろといっていることが多いのですが、それは本末転倒なのです。なぜ会えなくなったのか、なぜ会わそうとしないのか。まず、それを冷静に話し合うことが最も必要なのです。

 日本では、話し合いがつかず、高葛藤になってから家庭裁判所などの第三者が介入することになりますが、欧米のように、話し合いの段階から父母をサポートする仕組みが必要だと思います。

 実は、すでにFPIC(公益社団法人 家庭問題情報センター)という機関があり、そこには、高葛藤の夫婦の調停を行ってきた家庭裁判所の書記官や調査官出身の職員が就いていて、離婚に関わるサポートを行っています。

 しかし、日本ではそうした機関に頼らなくても、離婚届を役所に提出するだけで離婚が成立してしまうのですから、自治体レベルで、離婚に関するアドバイスやガイダンスを行う仕組みをつくるべきでしょう。

 実は、厚労省でも、そうした仕組みの研究を行っていますが、共同親権制度の導入より、離婚に関するガイダンスの仕組みをつくることが先決だと思います。

 また、結婚と離婚に関する法教育を充実させていくことも必要です。2022年4月1日から18歳を成人年齢とする制度も始まります。彼らをただ大人扱いするのではなく、きちんとした法教育を高校生までに行うことが重要です。

 私は、本学で「家族と人権」という講義を行っています。毎年、多くの学生が集まりますが、その中に数名は、実際に自分の両親が離婚し、子どものころから精神的なストレスを負ってきたという学生がいます。だから、親はどうあるべきなのかを学びたいというのです。

 正直、私はショックでした。子どもを置き去りにした離婚がどれほど多く、その結果、子どもは大学生になるほどに成長しても、その傷を負ったままなのです。

 彼らが同じ過ちを繰り返さないためだけでなく、彼らを精神的にサポートするためにも、教育が果たすべき役割は大きいと思います。

 日本は離婚率の低い国だといわれてきました。しかし、それは、高度経済成長期に、それこそ24時間働く企業戦士になった男性に対し、女性は家庭に入って支えたために、経済的な自立が難しかったからです。

 逆に、江戸時代の町人の女性は、自分から三行半を突きつけることも多かったのです。離婚が少ないのは、決して日本の古来からの文化ではありません。

 女性の社会進出が進み、経済的な自立がしやすくなっている現代では、離婚は増えていくかもしれません。それだけに、子どもに対する責任を尽くす仕組みとそれをサポートする仕組み、また、それらに関する法教育は絶対に必要です。離婚後の共同親権を議論するのは、それからでも良いのではないかと思います。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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