明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

子どもに会うための共同親権制度では本末転倒

明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授 平田 厚

高葛藤夫婦の問題は共同親権では解決しない

 欧米の動きに続いて、日本でも、超党派の議員たちにより、共同親権制度の導入を働きかける動きが出ています。しかし、その理由は、欧米諸国のように、親権を親の責任と考えるからではなく、離婚によって母親の単独親権になり、子どもに会えなくなった父親たちの不満の声を受けてのことのようです。

 私は家庭裁判所の調停委員を長くやっていました。そこで目にしたのは、離婚協議がまとまらず家庭裁判所に持ち込まれるようなケースでは、二人の対立は激しく、高葛藤であることが多いということです。とても冷静に話し合える状態ではありません。

 そこで、裁判所は、子どものより良い生活を考えて親権者を決定します。父親の場合はフルタイムで働いていることが多いので経済力はあるものの、なんらかのサポートがなければ、子どもにとって良い生活環境は得られないと考えがちです。残業で帰りが遅い父親を待っている間、子どもはひとりぼっちで、食事もできないということにもなりかねないからです。

 それに比べ、専業主婦であった母親は実家のサポートを受けられるケースも多く、あくまでも実家のサポートを前提とする限りでは、子どもの生活に合わせてパートタイムで働くこともできることが多いため、母親を親権者にすることが多くなってしまいます。そのため、親権者のおよそ7割が母親になっています。

 親権がなくなった父親は、それでも養育費を払うことになります。子どもには、扶養請求権という形で、親権のない父親からも養育費を請求することができるのです。

 すると、高葛藤状態であった母親は、父親に対して、養育費は出させても、子どもに会わせないようにしたりすることも生じてきます。

 例えば、裁判所が、養育費は月6万円という決定を出したにも関わらず、8万円出さなければ子どもには会わせない、と言ったりします。子どもを、養育費をつり上げる道具にしてしまうのです。

 また、子どもに、父親に会いたくないと言え、と言う母親もいます。本当は父親に会いたい、という子どもの気持ちを考えてあげていないのです。

 一方、男性は、子どもと接し、成長を見ることで、初めて父親の自覚が生まれるものだと思います。しかし、お金を払っているのだから会わせろ、という言い方はいかがなものでしょうか。子どもはモノではありません。親の付属物でもないのです。

 日本人は、子どもを親の付属物のように考える感覚が非常に強いといわれます。だから、母親は、子どもを父親との駆け引きの道具のようにしたり、父親は父親で、母親への嫌がらせから、面会交流後に我が子を殺すという事件を起こしたりもしてしまうのです。

 こうしたことは、共同親権という制度を導入しただけで解決するものでは決してありません。離婚後の共同親権の議論をする前に、他にやるべきことがたくさんあるのではないかと思います。

社会・ライフの関連記事

「自己責任」を押しつける社会に多様性はあるのか

2020.2.12

「自己責任」を押しつける社会に多様性はあるのか

  • 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授
  • 宮本 真也
運動は身体だけでなく頭の健康寿命ものばす

2020.2.5

運動は身体だけでなく頭の健康寿命ものばす

  • 明治大学 農学部 准教授
  • 加納 明彦
美術品の価格が分かると、国の文化度が上がる!?

2020.1.29

美術品の価格が分かると、国の文化度が上がる!?

  • 明治大学 専門職大学院 会計専門職研究科 教授
  • 池上 健
自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ有効な支援プログラムがある

2020.1.15

自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ有効な支援プログラムがある

  • 明治大学 文学部 専任講師
  • 川島 義高
医師の労働時間の改善が、より豊かな医療の実現に繋がる!?

2019.12.11

医師の労働時間の改善が、より豊かな医療の実現に繋がる!?

  • 明治大学 経営学部 専任講師
  • 早川 佐知子

Meiji.netとは

Meiji.net英語版

新聞広告連動企画

新着記事

2020.02.12

「自己責任」を押しつける社会に多様性はあるのか

2020.02.05

運動は身体だけでなく頭の健康寿命ものばす

2020.01.29

美術品の価格が分かると、国の文化度が上がる!?

2020.01.22

軽い!強い!錆びない!次世代構造材CFRPの用途を広げる

2020.01.15

自殺未遂者の再度の自殺を防ぐ有効な支援プログラムがある

人気記事ランキング

1

2020.02.12

「自己責任」を押しつける社会に多様性はあるのか

2

2019.01.16

自動作曲システム「Orpheus」は将来の芸術分野のひとつになる

3

2019.03.27

高校で必修となる「地理」は、もう暗記教科ではない楽しさがある

4

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

5

2020.02.05

運動は身体だけでなく頭の健康寿命ものばす

Meiji.net注目キーワード

【注目!】連載コラム