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物に「痛い!」と言ってもらえる!?非破壊検査技術AE法

明治大学 理工学部 准教授 松尾 卓摩

AE法により補修の時期を見極めることも可能に

松尾 卓摩  今後の課題としては、コストの問題があります。物が発する「痛い」の信号を的確にキャッチし、その場所をより正確に把握するためには、取り付けるセンサーが多いほど精度が上がります。

 しかし、センサーの数を増やせば、それだけコストがかかることになります。センサーは、10円玉位の大きさの飴玉のような形のものなど様々ありますが、ものによっては3~4万円します。

 そこで、もっと安く制度の良いセンサーを開発するために、私たちの研究室で取り組んでいるのが、光ファイバーを使った研究です。

 光ファイバーの中には光が通っていますが、それが音の振動に対して変調を起こします。この特性を利用するわけです。

 一般に目にすることもある光ファイバー・ケーブルは、複数の光ファイバー心線を束ね、保護用の皮膜で覆ったものですが、私たちが研究に使っているのは直径0.2㎜くらいの光ファイバー素線です。これなら、1個のセンサーを作るのに数千円程度で手に入ります。

 これを、例えば、私たちは橋に通っているガス管の検査のお手伝いをしたことがありますが、そうしたパイプラインなどに巻き付けたり、あるいは、壁面に線を這わすように貼り付け、高い精度で音を取り込むセンサーにすることを目指しています。

 また、AE法にIoTの技術を応用する研究も進められています。現在は、センサーは計測器と繋がっていて、その計測器から出てきたデータを個別のコンピュータで解析しています。これを中央管理するコンピュータに転送し、一括して処理をする構想です。

 すると、検査要員は常に中央管理室に待機していて、○○橋に通っているパイプラインの西側83mの箇所から異音が出ている、といった情報が入り、すぐにその現場に急行するといった体制がとれます。

 さらに、無線LANを活用すれば、人が行きにくい山奥にあるような送電設備なども常時監視することが容易になります。

 こうした非破壊検査のAE技術は、今後も様々な施設で導入が進められていくと思います。それは、施設や設備をできるだけ長く安全に使うためです。

 しかし、市民の皆さんにもご理解いただきたいのは、だからといって、少しでも異音があれば、すぐに補修する必要がある、というわけではない、ということです。

 そもそも、どんなに高い安全基準で、どんなに高い精度で造られた構造物でも、絶対に壊れない、ということはあり得ません。正常に稼働させていても老朽化は進みます。だから、物も、ときには「痒い」と言ったり、溜息をつくこともあるわけです。

 これをご理解いただいていれば、安全神話も、安全に対する過剰反応もなくなるのではないでしょうか。

 先にも述べましたが、物が発する音が「痛い」なのか「痒い」程度のものなのか、あるいは「超痛い」のか、その解析が私たち研究者の課題だったのですが、それがわかるようになってきたいま、本当に補修が必要な時期を見極めることも可能になっているのです。

 こうした技術の情報を私たち研究者はできるだけ発信するように努めますので、皆さんもご理解を深めていただければと思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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