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2018.01.17

スポーツで町を元気にするシナリオ ~ ソーシャル・イノベーション

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スポーツを介したソーシャル・イノベーション

 日本にも良い例がいくつもあります。新潟県の三条市に行政によって天然芝の野球場が造られました。収容人数14800人の立派なスタジアムです。ところが、あまり使われることがなく、宝の持ち腐れ状態でした。すると、地元で農業や芝生関連の事業を行う中小企業の社長さんが、地元に貢献したいという思いからスタジアムを活性化することを目指した活動を始めました。まず、このスタジアムの指定管理者となりました。プロ野球の二軍の試合を誘致すると、多くの人たちが集まり、観戦を楽しむようになりました。さらに、東京の大学に声をかけ、主旨に賛同した明治大学を含む6つの大学による大学野球サマーリーグの開催が実現しました。試合に出るのは1,2年生の控え選手が中心で、神宮球場などで行われる公式戦には出場機会の少ない選手がほとんどです。公式戦にはなかなか出られないとしても、新潟のサマーリーグで大会の場を与えられ、選手たちはここぞと活気あふれるプレーを見せてくれます。

 大学野球サマーリーグでは、新潟県内の高校野球部とも交流試合を行っています。大学生のチームなので高校生たちは歯が立たない。でも、高校生たちは大学チームと試合できたことに喜び、発奮し、技術を体感し、さらに上を目指そうと頑張るようになります。いろいろな人がアイディアを出し、運営にあたっては多くの人がボランティアで協力し、催しを盛り上げているのです。こうした盛り上がりが、スタジアムを中心に地域に広がっていくのです。雪がたくさん降る三条市の冬には、地元の子どもたちや住民による、雪の中での野球大会や餅つき大会などが行われます。三条市では、訪れた野球選手たちが近隣に宿泊する、ホッケーのメッカになった岩手町では全国から訪れた選手たちがスポーツショップで用具を購入する等、それぞれ地元への経済的効果も生まれています。

 岩手県岩手町は、町が人工芝のグランドホッケー場を造り、グランドホッケーを「町技」と定めて普及に努めてきました。町の教育委員会の計らいで、小中学校ではホッケーが体育教科に取り入れられ、多くの子どもがホッケースティックを持つようになりました。国体で良い成績をあげ、町から日本代表選手を輩出するようになり、オリンピック出場選手も出ました。いまでは「ホッケーの町」として関係者に広く知られ、国体やインターハイをはじめ、様々な大会の会場となり、地域の経済活性化につながっています。

 そのような「大成功」の秘密は、野球やサッカーなどに比べてグランドホッケーがマイナーなスポーツだということがあります。男子の部活動がある全国の高校の選手数を見ると、野球やサッカーは15万人以上なのに対し、グランドホッケーは2000人余です。しかし、あえて競技人口の少ないスポーツを町技とすることで、町の特徴を打ち出し、大きなインパクトを実現したのです。もちろん、グランドホッケー自体の楽しさが町民に広く伝わり、多くの市民チームが生まれ、交流が行われています。その中では、なんと、70歳以上の女性がメンバーになっている「ばあちゃんズ」というチームも生まれました。グランドホッケーという新しい「ツール」を掲げて、地域社会を活性化したこの取組みは、ソーシャル・イノベーションのひとつの素晴らしい事例だといえます。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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