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日本に、オリンピック・ムーブメントは起きているか?

高峰 修 高峰 修 明治大学 政治経済学部 教授

インターセックス問題は今後の重要な課題

 しかし、性の問題にはさらに複雑な面があります。身体が男性と女性両方の性的特徴をもつアスリートの存在です。リオ・オリンピックにも出場し、陸上女子800メートルで金メダルを獲得した南アフリカのキャスター・セメンヤ選手については、いまだに様々な論議を呼んでいます。この問題点はどこにあるのか。そもそも、競技スポーツは男女別で行うことを原則としてきました。主な理由は、男女混合で競技をすると、筋肉量に劣る女子選手にとって不利だからです。1968年から1999年まで、オリンピックでは性別確認検査が行われていました。現在では行われていませんが、セメンヤ選手のようなケースが生じた場合に限って体内の男性ホルモン(テストステロン)量を計る検査を実施することになっています。それは、テストステロンが筋肉の生成に強く関わるホルモンだからです。現在は、男子選手の下限である1リットルあたり10ナノモル以上の選手は、女子の競技に参加することはできない規定になっています。しかし、テストステロンのレベルと競技力の関係を示す科学的根拠はまだ確立されていません。今後、医学の進歩によって新たな指標が出る可能性もあります。いずれにしても、今やスポーツ界における男女の判別は身体の外性器や内性器、染色体といった生物学的な性別ではなく、より公平を保つためにホルモン量を指標とする段階にきているわけです。

 当然、セメンヤ選手もこの規定をクリアしてリオ・オリンピックに出場しています。しかし、セメンヤ選手がここに至るまでに、相当のプライバシーの侵害を受けたことは忘れてはなりません。競技会に出場して成績を上げたことで性の疑惑を受けるまで、自分がインターセックス(中間的な性)であることにセメンヤ選手自身も、家族も気づいていなかったそうです。それが、競技成績を認めてもらい競技生活を続けるために様々な検査を受けることになり、しかも秘密であるはずの結果や数値が世界中に知れわたることになったのです。実は、セメンヤ選手の女子競技への出場を激しく非難した白人女性のマラソンランナーがいます。しかし、ある研究者によると、セメンヤ選手の記録は彼女と同種目(800メートル)の男子トップの記録と12%の差があるのですが、この白人女性のマラソンランナーの記録と、男子マラソンのトップ記録との差は10%しかないのだそうです。つまり、セメンヤ選手を非難した白人女性のほうが男子に近い記録を出しているのですが、彼女が性に関して疑惑や検査を受けたことはありませんでした。もし、セメンヤ選手が典型的な白人であったら、プライバシーをあれほど侵害されるような扱いは受けなかったかもしれません。セメンヤ選手が批判される背景には、身体の性の問題に加え、人種といった要素も関わっていると思えてなりません。スポーツは、性の問題に加えて人種や宗教、国家といった要素が交差して表れ出る舞台でもあります。

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