AIと人間の「共創」が生む、ゲームとコンテンツの未来
ゲームAIは、かつてのように「ただ強い」だけの存在ではなくなりつつあります。強さの追求から一歩進み、人間との関係性のなかで「どう使われるか」「どう共に体験をつくるか」が問われるようになってきたのです。
たとえば将棋の世界では、AIの強さがレベルに応じた学習や娯楽に役立つケースもあります。あるプロ棋士によれば、ごく幼い子どもとの対局では「わざと負けてあげる」ことでやる気を引き出すのだそうです。いわゆる接待プレイです。とはいえ、毎回大差で圧勝という感じになると、手加減された相手も面白くありませんよね。僅差で勝たせることが大切です。このような工夫は、一般的な上達のための練習においても重要で、プレイヤーが気づきを得て、勝てたと実感できるような展開が求められます。
「いい塩梅で負ける」「学びを得させて勝つ」ことができるのは、圧倒的に強い実力を持ってこそです。人間が「楽しい」「気持ちよかった」と感じるような勝ち筋を、AIがうまく提示できるようにすることは、最近の研究がめざす目標の1つとなっています。これは、教育やモチベーション設計におけるAIの新たな可能性を示しています。
また、オープンワールド型ゲームにおける体験のパーソナライズ化も進み、「あなたのためだけの展開」や「その瞬間にしか体験できない出来事」に価値が見出されるようになっています。AIがプレイヤーの選好や行動を分析し、物語や難易度を最適化してくれるようになってきているのです。
一方で、「みんなが同じ体験を共有したい」という欲求も依然として存在します。同じゲームを通じて語り合い、競い合いたいというニーズと、個別最適化された体験を求める動きとの間で、今後のコンテンツ設計には柔軟なバランス感覚が求められるでしょう。
AIによるコンテンツ提供の仕組みも進化しています。従来のテレビ放送ではなく、YouTubeのようなストリーミング配信が主流であるeスポーツでは、ユーザー自身が「誰の、どのシーンを見るか」を選べるようになっています。この視聴体験もまた、AIによってパーソナライズされ、ファンの熱量を高める要素になっているのです。
今やコンテンツ制作においてAIは欠かせない存在です。ゲーム、音楽、映像、さらにはダンスといった多様な領域において、AIは創造のパートナーになりつつあります。とくに没入型コンテンツや、その人のためだけにカスタマイズされた体験の価値は高まっており、「コンテンツとは何か」という問いそのものが変化しています。
このような時代において、コンテンツ制作者もまた、AIの影響から逃れられません。AIが生み出す素材や表現を前提に、「そのうえで何を伝えるのか」「どんな体験を届けるのか」といった視点が、クリエイティブの本質となっていくでしょう。
重要なのは、AIと共に進んでいくにあたって、「AIに何ができるのか」「AIにどこまでを許すべきか」という観点を忘れないことです。それは倫理的・社会的な観点でもあるでしょうし、本当の価値を生むための人間としての「こだわり」となる観点でもあるでしょう。ビジネスの現場においても、ただ効率化や自動化を求めるのではなく、AIと人間が共に価値を創出していく関係性をどう築いていくかが、今後のカギとなるはずです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
