ゲームAI進化の背景には、飛躍的な探索能力の向上がある
AIの進化は、ゲーム分野にも大きな変化をもたらしています。かつてのビデオゲームは、ストーリーやシナリオがあらかじめ用意されており、プレイヤーはそれを追体験していくという構造でした。しかし近年では、「オープンワールド」と呼ばれる、プレイヤーが自由に仮想世界を探索し、自分の意思で物語を紡いでいく形式が増えつつあります。
対戦型ゲームにもAIが浸透しています。将棋のテレビ中継などでは、AIによる「形勢判断」や「ミスの指摘」がリアルタイムで表示されるようになり、視聴者がどの場面から見始めても対局の流れが理解しやすくなりました。これにより、従来よりも将棋を観戦するハードルが下がり、「観る将(観戦専門の将棋ファン)」と呼ばれる新たなファン層の拡大にもつながっています。
ゲームAIの発展を語る上で欠かせないのが、2016年に登場した囲碁AI「AlphaGo」の存在です。登場した当初は、インターネット上で「正体不明の強豪プレイヤーがいる」と話題になりました。プロの棋士たちも含む強豪数十人を相手に無敗を誇り、その正体がAIだと明かされたときには世界中が驚きました。
チェスでも1997年にAIが人間のチャンピオンに勝利し、「人間の知性の象徴が敗れた」と世界に衝撃を与えましたが、囲碁はゲーム全体の局面数が桁違いに多く、チェスのやり方の延長ではまだまだ達成できないと思われていました。後に述べるAI技術のブレイクスルー、ニューラルネットが再度脚光を浴びることになったマイルストーンの一つとして、AlphaGoの名前は衝撃とともに広く記憶される事例になったと言えます。
将棋においても、プロ棋士の藤井聡太さんがAIと対局しながら研鑽を積んでいるように、AIは学習パートナーとしても機能しています。以前のAIは、基本的に人間がルールや条件をプログラムし、時間をかけて少しずつ強くしていくものでした。その後、統計や機械学習の手法を用いて、「強い人ならこう指す」という傾向を学習させる方式に移行します。現在はさらに進んでおり、AIが自らプレイを繰り返しながら勝ち筋を学習し、人間の知識を一切前提とせずに進化していく、強化学習と呼ばれる方法が可能になりました。
こうした進化の背景には、膨大な局面の探索能力があります。たとえば、この先に現れる局面を1秒間に100万局面のような速さで検討し、それぞれの手の先にある結果を咀嚼して、「前に100万局面読んだ結果はこんな感じでやや優勢」というように、次からは読まずに答えられるよう学習していくことができるようになりました。形成判断の基準も、昔は人間の調整が不可欠でしたが、現在ではAI自身が王の囲い方や持ち駒の種類など、環境を理解し行動を決めるための要素(特徴量)を自動的に組み合わせることが可能になっています。これを実現するためによく用いられているのが、ニューラルネットワークによる深層学習(ディープラーニング)です。
どのゲームの例も、技術の進化のみならず、ハードウェアの性能向上が相まって現状に至っています。コンピューターの処理速度は10年で約1000倍というペースで高まっていると言われており、その成長は今も衰える気配がありません。近年では、「どんなゲームでも、ある程度時間をかければAIは人間のトップレベルに到達できるのではないか」と考えられるようになっています。麻雀などの身近なゲームも含めて、AIの実力は確実に人間に迫ってきています。
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