精度が高まった測位衛星システム
今日では、多くの車にカーナビが搭載されています。これは、高度約2万kmの上空にある測位のための人工衛星から発信される電波信号を受けることで、自車の位置を測定する技術です。
一般にGPSと言われますが、GPSとはアメリカが運用している測位衛星システムのことです。
そもそもはアメリカの空軍と海軍が開発したシステムで、1995年に無償で民生利用が開始されました。以来、日本では位置情報にこのシステムを利用してきたため、GPSと呼んでいるわけです。
しかし、現在では、各国がそれぞれ測位衛星を打ち上げ、独自の測位システムを運用するようになっています。
例えば、ヨーロッパのシステムはGalileo(ガリレオ)、ロシアはGLONASS(グロナス)、中国は北斗(英語名BeiDou)です。こうした各国の測位衛星システムを総称してGNSS(Global Navigation Satellite System)と言います。
遅ればせながら、日本も2010年に最初の測位衛星を打ち上げ、その後、3機増えて4機体制の測位衛星システムをもっています。それが「みちびき」です。アメリカやヨーロッパではそれぞれ30機以上を運用しているので、それに比べると、衛星数に限って言えば、日本はまだまだ、測位衛星後進国の状況です。
しかし、日本の測位衛星は常に日本の上空に位置するような特殊な軌道をとっている準天頂衛星システムのため、日本国内での測位に限って言えば、その精度を飛躍的に向上させました。
例えば、カーナビが、実際に走っている道とは違う場所を表示するという経験をした人もいるのではないかと思います。その原因のひとつは、自車の上空に測位衛星が位置していないため、電波の届きが悪くなっていることです。
その意味で、測位衛星の数が多いということは、自車の上空に測位衛星がいる確率が高くなるので、測位の精度が保たれやすくなるわけです。
一方、「みちびき」は4機と数は少ないのですが、準天頂衛星であるため、測位精度を保つことができます。さらに、都心部などで高層ビルが林立している場所を走るときでも、自車の上空に測位衛星が位置していれば、電波をビルに遮られることなく安定的に受信できるわけです。
測位精度が悪くなるもうひとつの原因は、測位衛星からの電波が大気中を進む過程で誤差を生じさせることです。この誤差の影響を軽減する方法として、RTK測位があります。
これは、測位衛星からの電波を位置の定まっている基地局(リファレンス局)で受信することで、電波の誤差を割り出し、この同じ電波を受信している周囲の車などの移動体に、誤差を修正する情報を送信する仕組みです。
このRTK測位の場合、基地局が自車と近い位置にいなければ、同じ誤差を含んだ電波を受信しているとは限らなくなるため、このサービスを提供している通信会社などは、基地局を全国に密に配置し、移動体が、常に、最も近い基地局から、誤差を修正した情報を受けられる体制を整えています。
こうした技術やインフラの整備によって、測位精度は数センチ程度の誤差で収まるようになっています。これは、例えば、完全自動運転を実現するためには非常に重要です。
先に述べたレーダーなどの技術と組み合わせることで、車道の脇を歩く人に接触しないように走行したり、狭い道でも車同士が安全にすれ違うことができるようになるからです。
こうした安全性を確保するために、高い精度のセンシング技術が求められているのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。