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先端医療に貢献するものづくりは、汗の結晶!?

工藤 寛之 工藤 寛之 明治大学 理工学部 准教授

最新のシステムを支えるものづくりの発想

 汗が一部の血液成分を含むことは、以前から知られていました。しかし、汗を計測するというのは簡単そうで実はとても難しい技術なのです。

 例えば、汗は汗腺と呼ばれる皮膚のとても小さい組織から分泌して、皮膚の表面に出た瞬間から水分が蒸発していきます。霧吹きで飛ばした水滴が机に落ちても、すぐに蒸発してしまうのと同じです。そのため、出てきた汗をすぐに採取していかなければなりません。少しでも時間が経ってしまうと、その汗が分泌したときの成分の濃度とは違ってしまうかもしれないのです。

 また、汗は皮膚全体から均一に分泌するわけではありませんし、汗として出てきた成分の一部は水分が蒸発しても皮膚上に残ってしまいます。

 つまり、汗の成分を計ろうにもそもそも正確に、連続して汗を集めることが、できそうで簡単にはできない技術だったのです。

 そこで、私たちは皮膚の表面に絶えずキャリア流と呼ばれる無害な液体を流す機構を作りました。汗はキャリア流に溶けてセンサに搬送されることにより、成分の一部が皮膚に残ることなく、皮膚の表面の状態を常に洗い流すことで一定に保つことができるようになったのです。

 これによって、従来は調べることが難しかった運動中の汗の成分がどのように推移しているかを、リアルタイムに計測できるようになったのです。

 さらに、計測の精度を向上させるために、デバイスに取り付ける試薬の成分をどのようにしたら良いのか、その温度は何度にしたら良いのかなど、条件を細かく詰めていきました。

 このデータが実際に活用されるためには、再現性・信頼性のあるシステムを構築し、データの合理性を担保することが重要だからです。

 こうした工夫は、トライアルアンドエラーを重ね、その中で、発見したり、思いついたりしたことの積み重ねです。もちろん、その過程は失敗の方が多くありますが、それを糧にしていくことが大切です。それが、ものづくりの基本でもあると思います。

 近年、技術者を目指す学生たちの中で脚光を浴びている情報やAIの分野でも、特にソフトウェアの開発が人気ですが、どんなソフトウェアでも、ハードウェアがあってはじめて成立します。

 つまり、私たちの生活の質を向上させるものづくりにおいて、ハードウェアの開発を欠くことはできないのです。日頃からものの仕組みや成り立ちに興味を持って接していると、それは「ものづくり」以外にも色々なところに活かされます。

 日々の暮らしやビジネスでも、例えば新しい製品や旅先で建物や工芸品を見た時にも「ものづくり」の視点から考えることができると思います。そこから、新たな発見やブレイクスルーのきっかけが得られることもあるのではないでしょうか。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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