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人工知能を作ることから始まる現代のものづくり

金子 弘昌 金子 弘昌 明治大学 理工学部 准教授

様々なものづくりにおいて活躍する人工知能

 では、データ化学工学が、実際にどのように活かされるのかと言うと、例えば、私たちの研究室で共同研究している例で言えば、医薬品があります。

 みなさんも体のどこかが不調のとき、薬を服用することがあると思いますが、薬とは、不調の原因になっている細胞のたんぱく質とガチッと結合して、なんらかの作用を起こす分子です。

 つまり、狙ったたんぱく質と上手く結合することが、薬が効くということになります。なので、より効く薬を開発しようとすれば、様々な分子とたんぱく質の結合を実験で調べていくことになります。

 しかし、分子とは少なくとも10の60乗個存在すると言われていて、とても、すべての分子を調べることなどできません。

 しかし、過去の様々な実験結果のデータを基に学習した人工知能を作れば、新たな実験を計算し、その結果を予測することができます。その予測を基に実際に実験を行えば、より短期間で薬の開発が行えることになります。

 特に、近年は、新型コロナウイルスなどのように、未知のウイルスがあっという間に世界中に広がり、パンデミックを起こすことがあります。それに対抗するためには、より短期間での新薬の開発が求められます。

 医薬品の開発において、データ化学工学の果たす役割はより大きくなっていくと思います。

 実は、医薬品に限らず、様々な素材の開発には、データ化学工学が必要不可欠になっています。

 例えば、プラスチックは、まさに化学製品ですが、ビニール袋のような薄くて成形しやすいものから、車のフレームなどに使われるような硬くて頑丈なものまであります。また、生分解性をもったバイオ・プラスチックを安価に大量生産することも求められるようになっています。

 そうした所望のプラスチック素材を作るためには、いくつかの分子を適切な割合で混ぜる、いわゆるレシピを設計することが必要です。そのような分子設計を計算できる人工知能を作れば、より効率的に素材開発ができるようになります。

 また、こうしてレシピを作ることができても、それを大量生産するためには、また別の設計や稼働管理が必要です。

 例えば、一人前の美味しいカレーのレシピができても、では、それを大きな釜で100人分作ろうとしたら、具材の中まで火を通す問題などが出て、一人分のレシピをただ100倍にすればできるというわけではありません。

 それと同じで、新しいプラスチックのレシピができても、それを大量生産するプラントを造ろうとすれば、そのための設計が必要ですし、そのプラントを問題なく稼働させ続けるためには、また、そのための設計も必要です。そこでも、データ化学工学によって作られる人工知能が活躍するのです。

 例えば、シャワーの温度を40℃に設定すれば、その温度のお湯が出るようになっています。それは、お湯の温度を測るセンサーがあり、それを基に加熱の加減をコントロールする仕組みになっているからです。

 しかし、プラスチックの硬さや強度を製造過程で測定することはできません。大釜でカレーを調理中、すべての具材の火の通り具合を調べることができないのと同じです。

 そこで、プラスチックの硬さや強度を測るセンサーに値する機能を人工知能に行わせるのです。

 もちろん、人工知能もプラスチックを直接測るわけではなく、原料の分子の量、加熱温度や時間など、製造プロセスをデータ化して学習することで、一定の品質のプラスチックを安定的に製造できるように予測するわけです。

 逆に、通常と異なる徴候を見出せば、異常が起こることを予測することも可能になります。

 こうした人工知能の活用は、社会の様々な分野において今後も広がっていくと思います。

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