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2018.05.09

仮想通貨がもたらした新しい通貨間競争

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仮想通貨は現行の金融システムに対するアンチテーゼ

高浜 光信 ドルの影響から脱却し、アメリカに通貨発行特権を享受させないとする、いわば法貨と法貨の争いは、この2008年を契機として、新たな対立を生む潮目となります。それは、世界金融危機に対して、紙幣を増刷して銀行に注入し、救済しようとする各国の中央銀行の施策に対して一般の人々の反感が高まったことです。アメリカでも、FRBやウォール街をぶっ潰せという声が高まりました。つまり、それまでの金融システムに対して、その外部にある大多数の人々が声を上げ、批判を強めたのです。

 まさに、このタイミングに、サトシ・ナカモトなる人物が、第三者機関に頼らず、P2P(ネットワーク上の対等な関係にある端末間を直接つないでデータを交換するシステム)による分散型の通貨システムに関する論文を発表します。いわゆるブロック・チェーンとよばれる仕組みです。この根源には、通貨発行特権を国家や、それを取り巻く金融機関に独占させるべきではない、と考えるリバタリアニズムの思想が流れています。つまり、中央銀行を頂点とする現行の金融システムに対するアンチテーゼが、実際に形づくられるための着想を得たのです。そして、2009年、仮想通貨と呼ばれるビットコインが誕生します。

 当然、ビットコインは決済手段の機能を重視したものでした。例えば、高い手数料や煩雑な手間をかけることなく、高いセキュアレベルのもとで国境も越えた送金や決済を可能にしたのです。その後、人々の期待や注目による価値の高騰ばかりに目が向けられ、価値の貯蔵手段や投機の対象とみなされるようになっていきます。しかし、サトシ・ナカモトやビットコインを立ち上げた人たちにはもっと高邁な思想があったはずで、仮想通貨がただの金融商品となったいまの状況を、彼らが嘆いていることは間違いないと思います。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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