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リーチサイトの規制で、みんなを豊かにする方法がある!?

明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授 今村 哲也

法律をインセンティブと考えて立案する

今村 哲也  では、この問題に打つ手はないのでしょうか。実は、動画共有サイトのYouTubeでは、コンテンツIDというシステムを導入しています。著作権のある作品がアップロードされていることがわかれば、その作品の権利者は、作品の閲覧をブロックする、作品に広告を表示させて収益化しその分配を受ける、作品の再生情報を受ける、といった3つのオプションを選択できるシステムです。つまり、著作権の権利者も、サイト運営者も、ユーザーも、だれかが一方的に得をしたり損をすることがないような、適切な妥協点を設けようとした仕組みです。IT企業から、こうした仕組みが生まれてきたことは大きな進歩といえるでしょう。

 リーチサイトの問題を複雑にしてきたのは、述べてきたように、この問題の周辺には異なる利害をもつさまざまな当事者がいるために、適切な妥協点に到達できなかったからです。そのため、規制をつくることもできず、インターネット空間において「やったもの勝ち」が野放図に行われています。権利者側の一方的な負担や損害が続き、その結果、マンガ出版などは斜陽産業ともいわれるようになり、新しい作品を生み出す力が衰えてきてしまいました。それは、自由を主張してきたインターネットユーザーにとっても、大きな損失です。また、権利者側は既得権益を守ろうとする傾向があるため、マーケットの変化に対応してビジネスを変えていく柔軟性にやや欠けています。その結果、ユーザーの期待に応えるような新しい仕組みづくりは、YouTubeのようなネットユーザーに新たなプラットフォームを提供する企業に先を越されてきました。場を提供するだけのプラットフォームは、ユーザーの個々の行為について必ずしも責任を問われないため、新たなビジネスを展開する上でフットワークがよいのです。権利者の側もさまざまなビジネス上の取り組みをしてきており、徐々に、適法なオンデマンドサービスや、電子配信サービスが拡がりつつあります。見たいときに自由に見たいというユーザーの希望に応える効率のよいサービスを充実させていけば、侵害コンテンツのサイトや、それとリンクしたリーチサイトも減っていくはずです。しかし、その前提として、あまりに悪質なリーチサイトについては明確な法的規制が必要だ、という議論は十分になりたちます。その際には、著作権の保護とインターネットの自由のバランスという視点が必要となるでしょう。

 実は、法律を、人々の活動を規制するものと捉えるのではなく、社会のみんなを豊かにしていくためのインセンティブ(動機づけ)と捉える考え方があります。法律を立案するとき、それは何かを規制することには違いないのですが、その規制は、みんなを豊かにするための設計に基づいて考えることができるということです。YouTubeのシステム(要はルールであり規制)は、その良い例です。いま、議論が進むリーチサイトに関する法律も、まず、みんなが豊かになるような社会の未来像を設計し、そこに向かう活動を促すという観点から、立案していくことが必要であると考えます。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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