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インバウンドとアウトバウンドが逆転した日本が、 観光立国へ向けていますべきこと

明治大学 国際日本学部 専任講師 佐藤 郁

観光がもつ両面から見えてくるジレンマ

 いま、私たちの周りでは、経済効果や地域活性化など、観光によるメリットばかりが語られているように思います。しかし、観光には負の影響もたくさんあります。例えば、来日するのは観光客ばかりではありません。インバウンドが増えるということは、テロやパンデミックといったリスクも高まるということです。また、もっと身近なことでいえば、昨年話題になった爆買いによる買い占めや、旅行者のマナー違反、民泊などの問題も起こります。自分たちのエリアに外から人が入ってくるということは、環境や、社会、文化など、様々な分野で影響や摩擦が起きるということでもあります。観光は本質的に、地域に賑わいと活気をもたらし経済効果を生む良い面と、住環境や社会への負の影響、文化的な摩擦を起こす悪い面を抱えているのです。観光は、こうした両面によるジレンマのある活動だということを、まず認識する必要があります。

 では、このジレンマにどう向き合えば良いのでしょう。旅行者に対して、日本に来ているのだから日本の習慣やマナーに従えと、一方的にいえば良いのでしょうか。しかし、それで観光立国として成り立つでしょうか。例えば、旅行者を惹きつける魅力のある国のひとつであるイギリスでは、パブリックの概念が歴史的に醸成されていて、公共の空間を他国の人とも共有する意識が根付いています。イギリス留学中に、私はよく息抜きに公園やスクエアガーデンで本を読んだりして過ごしました。同じ空間や場所(例えば同じベンチ)に知らない人が入ってきても、笑顔で挨拶を交わしつつ、お互いを尊重しそれぞれの時間を過ごします。そして最後は「Have a nice day!」といって去っていく。家族や友人ではないけれど、決して他人や敵ではない適度な距離感の取り方を知っている、それがとても居心地が良く、公共空間での過ごし方が身に付いていると感じました。イギリスでは多くの空間や観光資源でこういったパブリックの概念が息づいています。公共空間は「みんなが共有する空間」であり、それは決して他国の人を排除するものではないのです。外国人や旅行者にとって、訪れた国の人と共有する空間に感じる居心地の良さこそ、その国の魅力といえるのではないでしょうか。

 それに比べると、日本人は私的所有意識、縄張り意識が強く、よそ者に対して排他的な傾向があるといわれます。いわゆる、村意識です。また一方で、日本では「仲間」ではない誰かと共有する空間は基本的に「お上」から与えられるもので、公共的な空間(公園や公共施設)への帰属意識が薄く、これが時に誰かと共有する空間やよそ者への「無関心」を引きおこします。もちろん、村意識をもつことは共同体としての結束など良い面もたくさんあります。しかし、外から来た人を拒絶したり、無関心であったり、また一方的に仲間だけが理解している“村の掟”を押しつけていては、観光は成り立ちません。観光とは、空間や場所、観光資源を「よそ者」と共有することであり、それは、価値観の共有や、互いの尊重をもとに構築されるものです。

 しかし、価値観を共有することや相手を尊重し過ぎることによって、自分たちのアイデンティティが保てなくなるような怖れを抱いている人もいると思います。それでは、フランスを見てください。インバウンドが世界一の8,370万人に達しているフランスは、世界一の観光大国といえます。確かに、美術館やグルメなど、フランスには魅力的な観光資源がたくさんあります。しかし、フランスが他国の旅行者を惹きつける最大の理由は、フランス人が自国の文化やアイデンティティに非常に誇りをもっていることだと、私は感じています。その揺るぎないプライドが、パリの街並みを守ることや、自国の文化や歴史を強力に発信する力につながっています。フランス人が誇りに思う歴史や文化はとても魅力的であり、一方、フランス人と話してみると、彼らは決して排他的ではありません。世界一のインバウンド数がそれを物語っています。地域の人々が誇りをもって暮らしていること、それがまさにフランスが観光大国である所以なのです。ただ一方的に観光客を受け入れるだけが観光大国ではないのです。

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