歴史書や古典作品などで知識を得てから旅するほうが、理解も深まり面白い
17世紀初めにロンドンで出版された旅行記には、ギリシア神話やローマ神話の世界を巡ることに特化したものや、聖書の物語に合わせて書かれたものもありました。読者層はある程度、上流階級の人たちが想定されており、古代ギリシア、古代ローマの古典作品を知っている前提で書かれていました。
そもそも当時、旅をする際には、古典作品などを通して文化的背景を学んでから行くことが当たり前でした。書物を通して外国の文化、歴史などの知識を得て、それらを体験することで確認していたのです。ヨーロッパ大陸の国々でも異国を巡る文化がありましたが、イングランドは海を隔てています。そこを往復するのには、また違う感覚があったのだろうと察せられます。
旅行記には、イングランドではこういうところがイタリアではこうだといった文化の違いも多く記されていました。イングランドでは使っていない傘やフォークをイタリアでは使っているなど、自分の生まれ育った地域と比較し、自国を客観的に知る機会としたのは現代に通じるものがあります。
一方で今の旅行では、現在の情報は仕入れても、古典について調べてから行くことはあまりないように思います。しかし当時のイングランド人を見本にするなら、訪れる地域の過去についても学んでみるべきです。ミュージカルなどの舞台や美術館の絵画などを見ても、舞台となった時代や創作された当時の文化や社会状況を知っていると伝わり方も変わります。たとえば、ギリシヤ・ローマ神話の知識があれば、演劇や絵画の背景となる多くの物語を理解でき、わかるものも増えていきます。
16~17世紀はもちろんのこと18世紀のイングランドと比べても、現代の私たちが旅行するハードルは低く、とても気軽です。情報もインターネットから容易に得られます。当時のイングランド人に思いを馳せると、この状況がいかに便利なのかを実感できるはずです。ぜひこの環境を活かし、現代の若者も積極的に知識を蓄え、海外への興味を増幅させてほしい。また若者に限らず、実際に旅をして体験を得る機会を増やすことの大切さを実感してもらえればうれしいです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。