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2025.04.10

小説が社会を変えた19世紀イギリスから考える、メディアとの向き合い方

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情報の真偽を見極める力は、小説を読むなど想像力を高めることで養われる

 今ではさまざまなメディアがあり、個人による情報発信も気軽に行えるようになりました。結果、一つ一つのメディアの力は弱まっており、マスメディアの役割や位置づけが変わりつつあるように思います。アメリカ大統領選は、大手の新聞がハリス支持を表明し、接戦になると予想されていましたが、蓋を開ければトランプの圧勝でした。兵庫県知事選での斎藤氏の勝利も、SNSの力をうまく利用したためだと言われています。これらは、今のメディアの状況をよくあらわしています。

 また、AIが急速に発展してきた現代、残念なことにフェイクニュースといわれるようなデマも数多く飛び交うようになりました。本物と区別がつかない偽の動画や画像、音声がインターネット上に流され、それらがSNSを通じて拡散するという事態をたびたび目にします。

 今は昔と違い、触れられる情報量が圧倒的に多く、どれが本当でどれが嘘なのか見極めるのが非常に困難です。でも、だからこそ、私たちはフェイクとそうでないものの真贋を見極める力をしっかり身につけておかなければなりません。その力は、想像力を高めることで養われると私は考えており、小説はそのためのトレーニングとしても最適です。小説には、あらゆる時代、あらゆる状況が描かれています。そのなかで問題に対して答えを出す過程を、主人公と一緒に追体験すれば、物事を想像する力が磨かれ、社会と自分の接点を考え直せる機会にもなります。

 近ごろの若い世代には、小説を読んでいる人が少なくなってきました。最初から答えを見せられ、考えず鵜呑みにしてしまうことに慣れてしまっていて、明確な答えのない小説を読み切るのがもどかしいのだと聞きます。しかし、技術革新や情報化が進み、便利になってきた半面、情報を受け取る側の力が試されるのが、今という時代です。何が問題なのか、その本質に想いを馳せるための力を、ぜひ小説から学び取ってください。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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