「普通選挙の成立=民主主義の達成」?
先に、フランスでは、世界で最初に男子普通選挙が導入されたと述べましたが、では、それによって多くの国民が政治に関心をもち、参加するようになったのかというと、ことはそう単純ではありませんでした。
まず、国会議員選挙に出馬するには、一説には、当時の通貨で3万フランかかったと言われます。これは、当時の労働者のなんと年収18年分に相当しました。
しかも、国会議員になっても、第二共和政の短い期間を除いて、第三共和政が成立するまでは無給でした。これでは民衆が国会議員を目指すことはまず無理だったでしょう。
また、有権者になったといっても、当時の民衆の多くは無筆で、投票用紙に候補者の名前を書くことができませんでした。
さらに、もともと選挙に馴染みのなかった多くの人びとは、いざ選挙権を与えられても、どのように投票したらよいかわからなかったのです。そのため、政治のことを知っている町の有力者や議員などに、誰に投票したら良いのか、その人の名前の書き方などを聞きに行くこともありました。聞かれた人が自分に投票するように教えることも、当然あったでしょう。いまだ人びとは自らの政治的意見を意識することができない、あるいは、それを素直に表現することができない状態であったといえるでしょう。
世界史の教科書などを読めば、1848年の二月革命の成果として男子普通選挙が導入されたことが記されており、読むと、民主主義が達成されたかのようなハッピーエンドの印象を受けるかもしれません。しかし、歴史はそう単純ではありません。
そもそもこのときの普通選挙には女性が含まれていなかった点も重要ですし、男子普通選挙が導入されたといっても、国会議員のなり手は限られており、有権者は、教えられた人や、ただ知っている人に投票するという状況もしばしば見られたのです。このような状況では、短絡的に民主主義が広まったと考えることはできないでしょう。
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