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2023.06.28

世界一幸福な国の政策は日本にとって参考になる?

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日本がフィンランドを参考にすべきこと

 社会福祉・ヘルスケア改革については、ようやくマリン首相のもとで、とりあえず形にはなりました。しかしながら新しくできた広域自治体の機能、財源をどのようにするかについては、これからも議論の余地があるようであり、2023年4月に行われた総選挙でマリン首相率いる社会民主党が敗北したことで、新政権の課題として残されていくことになります。ここに至るまで約10年、迷走したとも言えるのですが、単に迷走と片づけて良いのかと考えています。

 この10年間、政権は移り変わりましたが、改革自体が全くの白紙に戻るということはなく、次の政権が新たな改革案を提示し、粘り強く議論を続けていました。そして、たとえば中道右派の連立政権のもとでの改革案は実現せず、与党は直後の総選挙で敗北することになりましたが、その後の中道左派の連立政権の改革案は、前政権案を完全に否定するものではありませんでした。

 このように改革自体はなかなか実現しませんでしたが、少なくとも徐々に前には進んでいた印象があります。他の国であれば、ともすれば前政権の案は完全に否定されるとともに、そもそも改革の必要性から白紙で議論されるということもありうるのではないでしょうか。

 以上のことはフィンランドが連立政権であることや、そもそも社会福祉・ヘルスケア改革については財政規律の関係からEUにも実施を明言していたからということもありますが、サービス水準の将来的な維持のためには、何らかの改革が必要であるという共通認識がフィンランド国民の間にできていたということなのだと考えられます。ただし、その改革の具体的な内容については、迅速な決定よりは、慎重な議論が求められていたということなのだと理解しています。実際、政府は特定の施策について地域や期間を限定した実験的な取り組みを実施し、その課題等の評価を行いながら、慎重に議論を進めていたように見受けられます。

 もちろん、フィンランドのすべてが日本にとって参考になるとは思えません。しかし、ものごとをただ多数決で決めれば良いというわけではなく、議論することで納得する点を見つけていく、という民主主義のあり方を考える意味でも、世界一幸福な国フィンランドを参考にすべきことは、たくさんあるのではないかと思います。


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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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