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2023.06.28

世界一幸福な国の政策は日本にとって参考になる?

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高福祉サービスを持続させるための改革

 先ほど迅速な政策決定という話をしましたが、一概にそうともいえないところがあります。フィンランドが幸福度ランキング1位であるのも、おそらく、充実した社会福祉制度があることが影響しているでしょう。そして、フィンランドの知人などと話していても、フィンランドが福祉国家であることに誇りと満足を感じているように見受けられます。こうした福祉国家の根幹に関わる領域については、迅速な決定というわけにはいかないようです。

 フィンランドはEUに加盟して以来、経済成長が続き、EUの中でも財政の優等生と言われていました。しかし、いわゆるユーロ危機以降、経済の立て直しに苦労しており、財政的にもかなり厳しい状況に置かれています。そもそもフィンランドはユーロ導入国であり、金融政策の自由度は少なく、さらに財政的にもEUの基準という制約があります。そうした中で、そもそも課題とされていた少子高齢化と人口の南部への集中が進展してきているのです。したがって、財政面を考慮すると、社会福祉・ヘルスケアに関して何らかの改革が必要とされたのです。

 フィンランドにはもともと日本の県のような広域自治体がなく、市町村のような基礎自治体が地方行政を担っていました。そして、社会福祉やヘルスケアについては、その権限は基本的には基礎自治体にあり、フィンランドは基礎自治体中心の分権型福祉国家であると言われてきました。したがって、社会福祉・ヘルスケア改革は言い換えれば地方政府改革であるといえます。そして、この改革はおよそ10年間迷走することになります。

 まずは基礎自治体間での自発的な合併を促すことで、自治体の財政基盤を強化するとともに、サービス供給体制を効率化する政策(PARAS)が実施されます。このPARASは、ある程度成功するのですが、これだけでは足りないということで、その後、様々な案がその時の内閣から提示されることになります。

 たとえば、国による強制的な自治体合併を促す案、複数自治体で自治体組合を作り、財政力の弱い人口2万人以下の基礎自治体は社会福祉とヘルスケアの権限を、その自治体組合に移管しなければならないという案。幅広い権限を有する日本の県のような広域自治体を作り、社会福祉とヘルスケアの権限をその広域自治体に移す案などです。そして、それぞれの案では、民間部門を活用し、民営化を進めることも、案により程度の差はありましたが組み合わせて提案されました。

 これらの案の中で、実施寸前まで議論が進んだものもありましたが、なかなか実現することはありませんでした。この頃はフィンランド財務省に毎年のようにヒアリングに行っていましたが、訪問するたびに随分状況が異なっているなという感じでした。担当の方は気の毒だなと思いつつ、正直こちらとしてもなかなかまとめて論文にすることも難しく困ったことを覚えています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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