2024.03.21
- 2014年8月1日
- 国際
地球温暖化時代のサステナブルな暮らし方とは ―モンゴル遊牧民に学ぶ―
森永 由紀 明治大学 商学部 教授「伝統知」から学ぶ
「伝統知」で触れておきたいのが、遊牧民の食文化である。寒冷・乾燥地域であるため農耕は限られ、彼らの伝統的な食生活は冬は肉、夏は乳製品が中心だ。そこで野菜に代わって、ビタミンやミネラルを補うものとして夏場に大量に飲まれているものがある。馬の乳を発酵させて作る「馬乳酒」で、アイラグ、クミスなどと呼ばれる。水分、エネルギー、ビタミンの補給源であり、栄養価の高い“完全食”とされており、赤ん坊から年寄りまで愛飲する。アルコール度数は低く、ほのかな酸味があるさわやかな飲料で、産地ではこれだけで食事の代わりにしてしまう人もいるほど、夏場の主食的存在だ。家庭ごとの味があるのだが、そこには伝えられてきた豊かな菌叢があり、その薬効成分は国内外から注目を集めている。遊牧民にとっては数千年にわたって継承されてきた、食生活における「伝統知」の一つである。
私は年2回、モンゴルを訪れて調査研究を行っているが、滞在している間は、遊牧民と生活を共にさせてもらう。ゲル(伝統的移動式住居)に泊まり、遊牧民と同じものを食べる。太陽電池は普及してきたが、ガス、水道というインフラから隔絶した、都会生活と比すれば不便な生活である。そこでは“手”が最大の道具で、等身大の衣食住が人びとの手作りでまかなわれる様子はまぶしいほどだ。便利さに慣れ、自ら手を動かすことを忘れていた私も、いま一度“手”を意識するようになり、“手間”を省くためにエネルギーを浪費し、ものを使い捨てにしていることに気づかされている。手の持つ力を最大限に使う遊牧民のサステナブルな暮らしの知恵は、温暖化の現代に生きる私たちに新たな示唆を与えてくれるかもしれない。
※掲載内容は2014年8月時点の情報です。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。