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地球温暖化時代のサステナブルな暮らし方とは ―モンゴル遊牧民に学ぶ―

明治大学 商学部 教授 森永 由紀

モンゴル遊牧民の伝統知

 人間の居住限界を規定する要素として、寒冷、乾燥、高度があるが、そのうちの寒冷・乾燥限界のもとでモンゴル遊牧民は、数千年にわたって草原を破壊することなく、エネルギー消費も最小限で、遊牧を生業としてきた。つまり遊牧民はアネクメーネ(人間の非居住領域)近傍での暮らし方を、民族の知恵として持っているのである。そこでは自然に身を委ねる自然観があり、ときには、自然災害で家畜すべてを失うようなことも繰り返し起きたが、結果的に環境は破壊されずに草原が残されている。
人類はアネクメーネを克服しながらエクネーメ(人間の居住する領域)を拡大してきたといわれる。環北極圏開発などに見られるように、温暖化であらためてアネクメーネに挑みつつあるが、そこでのエネルギー消費や自然破壊を少しでも抑えて、サステナブルな営為を実践するために、モンゴル遊牧民や北方先住民の極寒の地に暮らし続ける「伝統知」を活かせるかもしれない。

家畜の大量死と気象

森永由紀教授 私がそもそもモンゴルに興味を持ったのは、雪害によって家畜が大量死したという報道に触れたからである。2000年代に入った頃だ。当時私は「積雪」を研究対象としていた。積雪と気候の関連性を研究するもので、その観点からモンゴルの雪害に興味を惹かれた。在外研究員として2年間モンゴル気象水文環境研究所に滞在した時に、ほどなくわかったのは、雪害とされた家畜の大量死は、雪だけが原因ではなかったことである。家畜は、干ばつのせいで牧草が減り、夏場に十分太れず、冬を越せなかった。つまりそれらの年は、夏に餌となる草が十分に育たない天候だったのである。また、社会主義が崩壊して家畜の私有化がすすみ、家畜数が急激に増えていたことや、失業者の多くが新米の遊牧民に転じていたという社会的背景もあった。気象災害対策は、一年を通した天候と、それと深く関与して暮らす遊牧民の生活をトータルに扱う必要があることを感じた。
以来、私は厳しい自然条件下の遊牧民の伝統的な生活を気象学的に検証し、防災や暮らしの向上に役立てることを目指す研究に従事している。たとえば厳しい冬を過ごす暖かい場所の選び方、牧草地の季節ごとの利用法、貴重な食料である畜産品の加工法・・・などの知識の検証には、遊牧民もとても興味を持ち、協力的なのがありがたい。

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