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差別、格差、貧困の問題と、環境の問題は繋がっている

寺田 良一 寺田 良一 明治大学 文学部 教授

日本人も考えなくてはならない環境正義の問題

 もちろん、環境正義はアメリカだけの問題ではありません。実際、日本で起きた公害問題も、その背景には、大企業と、そこに雇用を頼る地域住民との力関係、格差があります。それが環境汚染の発覚を遅らせたのです。

 ただ、アメリカと違っていたのは、日本には皆保険制度があるため、住民の健康被害について、医療関係者や保健所が気づいたことでした。また、問題を起こした企業や国も補償や支援を、アメリカなどに比べれば、前向きに実施します。

 しかし、逆に言えば、迷惑料的な地域自治体への補償金が、環境的不公正の実態をわかりにくくしている面もあります。

 例えば、原発を建てると、その地域に補助金が出ます。その補助金の支給期限が切れるとまた新たな原子炉を増設する自治体もあるほどです。

 しかし、それによって、原発が抱えるリスクのことや、そのリスクを抱える地方と、そこで発電された電気によってリスクなく快適な生活を送る都会、という不公正の構造が曖昧にされている面があるのです。

 しかし、街はきれいで、日頃、環境問題など意識することがない多くの都会生活者も、それは、言わば弱者にリスクを押しつけて実現しているのであり、日本という全体像で見れば、環境汚染や破壊、リスクが高まっていることを認識しなくてはならないと思います。

 その意味では、差別や格差問題と、環境問題を別個に捉えるのではなく、やはり、環境正義という捉え方で考えることが必要です。

 また、この問題は、日本国内だけでなく、世界的観点で捉える必要もあります。先に述べたプラスチックゴミの問題もそうですし、近年では、廃電子機器や水銀も大きな問題になっています。

 私たちは、パソコンやスマホによって便利な生活を享受していますが、数年で買い替えるそれら機器が、その後、どうなっているか知っているでしょうか。

 アフリカのガーナの首都アクラには、世界中から廃電子機器が持ち込まれています。それを河川敷などで焼いて処分するのですが、その際に、臭素系ダイオキシンが大量に発生します。それがどのような健康被害をもたらすのか、日本人はよく知っているでしょう。

 ところが、ガーナで、実際にそれを行っているのは子どもなのです。焼け残りの中から有価物の銅線などを見つけて売るためです。それが、彼ら家族の生活費になるのです。

 水銀もそうです。日本では水銀が使用された体温計や血圧計などの機器などは大幅に減りましたが、水銀が使用された廃機器などがあると、水銀だけ慎重に分別しています。いまでも、年間100~200トンほどの廃水銀が出ます。

 実は、その廃水銀を求める国があります。水銀は金を吸着する性質があるため、川の土などから金を取り出すのに利用するのです。

 家族単位などで行うため小規模金採掘と言われており、ブラジルのアマゾン川流域など世界各地で行われています。その結果、いまでは、その地域住民に水俣病のような症状が多発しているのです。

 廃水銀を慎重に分別して処分する日本には、水銀による環境汚染はもう起こらないかもしれません。しかし、地球規模で見れば、先進国などからの「輸出」によって、水銀汚染は、むしろ、進行しているのです。

 その背景にあるのが、健康被害を被っても、わずかな金を採ることでしか生計を立てられない貧困問題があるのです。

 日本や都会がきれいになることで、逆に見えにくくなっている、そうした格差の問題、不公正の問題、そして、地球全体の環境の問題。それらを環境正義の問題として捉え、対策を考え、実行していくことで、初めて、ひとつひとつの問題が解決に向かっていくのだと考えています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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