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日本型イノベーションは日本的両利きリーダーから生まれる

鈴木 仁里 鈴木 仁里 明治大学 商学部 専任講師

近年、多国籍企業によるイノベーションの創出が私たちの生活に変化や豊かさをもたらすことが増えています。そうした企業の成功の背景には、「両利きの経営」の実践が功を奏していたという見方があります。では、日本の企業が成長、存続していくためにも、こうした考え方を万能薬としてそのまま取り入れてしまっても大丈夫なものでしょうか。

「両利きの経営」がイノベーションを生み出す

鈴木 仁里 「両利きの経営」理論のオリジナル・コンセプトは、1991年に、アメリカの社会学者であるジェームズ・マーチによって発表されました。

 それを起点に、組織文化や経営学の研究者であるチャールズ・オライリー、マイケル・タッシュマンらによって実務界に適用されるようになり、現在では、イノベーション論の中核的理論と言われるようになっています。

 この「両利き」とは、認知の範囲を出て、知と知を新しく組み合わせる行為である「知の探索」と、知を徹底的に深掘りしていく「知の深化」を指します。

 ここで言う「知」は、組織や経営の視点で捉えると「既存のビジネスモデル」と設定することができます。

 すると、自分たちの既存のビジネスモデルを深掘り、例えば、製品のマイナーチェンジを重ねることで、競争力を高めたり、収益化に繋げることが「知の深化」ということになります。

 一方、自社のビジネスモデルに、他社などのビジネスモデルを組み合わせて、新しいビジネスモデルや商品、サービスなどを生み出していくことが「知の探索」ということになります。

 また、私の研究では、この「知」をもう少しミクロなレベルすなわち、新製品開発プロジェクトの次元で捉えています。ここでいう「知」とは、現場レベルの技術とか、人材の能力、特許、知識など、いわゆる企業のリソースを意味しています。

 すると、既存の技術や知識を深め、改善していく作業が「知の深化」であり、新しい視点や新しいフィールドをもたらし得るリソースを外部から取り入れる行為が「知の探索」となります。

 現代のグローバル市場を考えると、企業の成長と存続を確実なものにしていくためには、このふたつの作業や行為をバランスよく行っていくことが重要である、という考え方が「両利きの経営」なのです。

 例えば、このコロナ禍において、ファイザーはmRNA技術を応用したことにより、いち早くワクチンを開発することに成功しました。

 このmRNAの技術は、実は、ドイツのビオンテックという企業が研究を進めていたものです。ファイザーは、以前からmRNA技術に注目し、ビオンテックと提携していました。当初は、がんの治療薬の開発などを目的として研究を進めたようです。

 しかし、コロナ・ウイルスによるパンデミックに際して、mRNA技術と、ファイザー自身がもつワクチンに関する多様な知識や開発インフラ、量産化技術などの経営資源を効率、効果的に融合することで、コロナに対抗するワクチンを開発することができると考えたのです。

 つまり、日頃から「深化」が続けられていた自社のリソースに、「探索」によって得られた他社の技術を組み合わせることで、新しいワクチンのスピード開発というイノベーションに成功したと言えるわけです。当時は国家企業をあげての特別な開発支援体制があったとはいえ、「両利きの経営」の好例といえるのではないでしょうか。

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