「メンサロン事件」とブラジルの倫理問題
ブラジルは周知のように、近年台頭著しい新興経済発展諸国「BRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)」の一国であり、平均して4%という高い経済成長を続けてきました。ここへきて、BRICS各国の成長が失速していることが指摘されていますが、私が現地で受ける実感としては、そのような陰りはあまり感じられません。訪問するたび車の量が増え、渋滞がひどくなっているのも経済成長がもたらしているものでしょう。インフラが整備されていないという大きな問題はあるものの、ワールドカップ開催、それに続くオリンピック開催に向けて、着実に発展を続けているというのが率直な印象です。
このブラジルで、現在私が最も注目しているのが、ブラジル政治史上最大の汚職事件といわれる「メンサロン事件」の再審理の行方です。2005年、政府が議会の支持を取り付けるため、政府広報費等を事実上横領し捻出した資金を使って、与党議員を買収していたとの疑惑が発覚、当時の政権を揺るがした事件が「メンサロン事件」です。2012年から公判が開始され、事件に関わった政府要人、元与党党首ら有力政治家が有罪とされ刑も確定しました。これは、成熟した先進国に見られるような、“自浄能力”が生まれてきている証と思われました。
しかし今年になり、被告サイドの上訴を受けて再審理が始まりました。ブラジルの調査会社が行った世論調査では、サンパウロ市民の過半数がこの決定に反対と回答しました。それにもかかわらず、有罪とされ刑が確定している中での再審理が開始されたのは、ブラジル政財界で倫理観が未成熟であることのあらわれと言えるでしょう。また「メンサロン事件」の行方は、政治問題を超えて、ブラジルに“企業倫理”という考えが根付くかどうか、つまり新興国から世界経済をリードする存在に移行できるかを見極める上で、試金石になると考えています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。