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アメリカ・ファーストでは、国際経済の新たな秩序づくりはできない

小林 尚朗 小林 尚朗 明治大学 商学部 教授

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2018年以降、米中貿易摩擦が表面化し、激しくなっています。台頭する中国に対するアメリカの反発のようにも言われますが、問題の根底にあるのは、第二次世界大戦以後、構築されてきた自由貿易のルールが問い直されていることだと言えます。

問題を露呈し始めた戦後の国際経済の秩序

小林 尚朗 第二次世界大戦後、国際経済は「自由」、「無差別」、「多国間主義」に基づいて秩序が構築されてきました。それが、GATTやWTOを中心にした、いわゆる自由貿易体制です。

 特に、東西冷戦が終結した1990年代からは、自由化、規制緩和、民営化を三本柱にするようなネオ・リベラリズムが世界的に広がり、グローバル・スタンダード化していきます。

 では、本当に世界中がネオ・リベラリズムに賛成し、合意していたのかというと、実は、決してそうとは言えません。

 もちろん、第二次世界大戦のきっかけのひとつとなったのが保護貿易主義であり、その反省からGATTが生まれ、自由貿易体制が国際秩序の基盤になってきたのは事実です。

 しかし、原則としての自由貿易には賛成でも、一律な自由化には様々な問題があり、実際にそれが大きく進展するのは1980年代以降、特に1990年代でした。

 1995年に発足したWTOですが、いまでは、新しくなにかを決めることが難しくなっています。なぜか。それは、160を超えるメンバーにはそれぞれの事情があり、それぞれに適した政策が必要だからです。

 もちろん、グローバル化のなかで世界共通の基本ルールはとても重要ですが、それを一律に適用することは、それぞれの国の「政策を選択する自由」を制限することにもなるのです。

 特に、発展途上国にとって、それは大きな問題です。なぜなら、一律な自由化により、各国に特有な経済・社会的基盤が崩れたり、成長の芽が摘まれたりする可能性があるからです。

 例えば、日本の高度経済成長の時代には、産業政策という政府による市場介入が行われ、国内産業の保護・育成が図られました。貿易や直接投資にも制限がありました。同様な政策は、韓国や台湾でも行われ、「東アジアの奇跡」と呼ばれる経済成長につながりました。

 このとき、日本や東アジアに政策選択の余地が与えられず、完全な自由貿易体制が押しつけられていたら、今日の経済発展はなかったかもしれません。

 その意味で、いま、世界の関心を集めている米中貿易戦争は、1990年代以降に広がったネオ・リベラリズムに内在する問題を浮き彫りにしたとも言えます。

 であれば、現代の二大経済大国の対立は、これから新たな国際経済秩序を構築していくための、よいきっかけになるのではないかと思うのです。

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