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アメリカ・ファーストでは、国際経済の新たな秩序づくりはできない

明治大学 商学部 教授 小林 尚朗

アメリカ・ファーストが破壊する「無差別」、「多国間主義」

 従来、アメリカは、自由貿易の守護者を自認してきました。途上国に対しても、自由化、規制緩和、民営化を三本柱とする、政策パッケージを推奨・要求してきました。

 ところが、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ氏が大統領になると、「アメリカ製品を買い、アメリカの労働者を雇う」と宣言し、保護貿易へと舵を切りました。

 私は、保護貿易や介入政策が必ずしも悪いものだとは思いません。先に述べたように、特に途上国においては、時にそれも必要な政策です。アメリカの保護主義化は、ネオ・リベラリズムの限界と、その修正が必要なことを示しているとも言えます。

 ただ、トランプ政権下のアメリカの問題は、国際ルールを軽視した、そのやり方です。

 例えば、トランプ政権は、自国の鉄鋼業などを守るため、関税引上げを発表しました。そのうえで、関税免除を求めてくる国との間で、二国間交渉を積極的に進めました。

 各国が、一致団結してアメリカと多国間交渉をすれば良いのですが、自国だけでも関税免除にあずかろうと、「自国ファースト」でアメリカとの二国間交渉に応じました。

 日本も、鉄鋼などに続く自動車関税引上げというアメリカの脅しによって、二国間交渉に応じることになり、2020年1月には日米貿易協定が発効しました。

 もともと、TPPでは、アメリカは自動車関税の撤廃を約束していました。トランプ大統領は、TPPを離脱してそれを反故にし、新たな日米貿易協定ではそれにふれることもせず、一方で、日本はTPPで譲歩していた農林水産品などの市場開放をアメリカに認めたのでした。

 このように、経済大国アメリカとの二国間交渉では、各国とも不利な交渉を強いられ、「アメリカ・ファースト」の結果になります。

 言い換えれば、このような二国間交渉の広がりは、自由貿易体制の基本原則である、「無差別」や「多国間主義」を脅かすことになるのです。

 米中貿易戦争も、アメリカの中国製品・企業に対する差別的な対応を特徴とします。

 トランプ政権は、中国の不公正な貿易慣行や、国家安全保障上の問題、人権問題などを批判して、制裁措置を立て続けに発動しています。もっとも、中国に対する懸念は、アメリカ以外の国々でも共有しているところが少なくありません。

 しかし、アメリカは、WTOなどの国際ルールを軽視して、国内法を域外適用する形で中国に制裁を課しているのです。とても一方的で、独善的に見えます。

 中国は、政府が市場に介入したり、国営企業が大きなウエイトを占めていたり、いわば権威主義的な市場経済モデルです。

 非民主的政府のため、不信感をもたれがちですが、経済的には市場にすべてを委ねるのではなく、政府のある程度の介入や管理は、必ずしも否定されるものではありません。

 中国の対外政策の象徴が一帯一路政策ですが、21世紀のシルクロードとも呼ばれるように、ユーラシア大陸の多くの国々がその沿線諸国になっていて、中国は、物流網やその他インフラ整備のための支援を通じて影響力を高めています。

 欧米諸国と異なり、中国は支援の条件として民主化や自由化を求めません。これまで、支援の見返りにそれらを求めてきた欧米諸国にとって、不都合なライバルの登場です。

 他方で、途上国にとっては、支援国の選択肢が増えたことを意味します。支援を受けたいためにやむを得ず、1つの価値観に従わざるを得ない状況ではなくなりました。

 ただし、一帯一路政策にも問題があります。

 例えば、支援による借金漬け、いわゆる「債務の罠」がよく指摘されますが、これも、二国間で展開されているために透明性に欠け、懸念がますます高まると言えます。

 結局、米中の二大経済大国はどちらも、二国間ディールで物事を進めていく点では似ている側面があります。新たな国際秩序の構築にあたって必要となるのは、やはり、「無差別」と「多国間主義」ではないでしょうか。

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