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地方自治の権限の拡大によって、現代型民主主義は進化する

大津 浩 大津 浩 明治大学 法学部 教授

国と自治体の対立は、言論と合法的な抵抗手段が「対話」になる

 では、自治体の活動が部分的、暫定的であることを越えて、国の方針や活動と全面的に対立するとしたら、どうなるのか。

 例えば、イギリスのブレクジットの場合、国内のスコットランドや北アイルランドは親EUの立場をとっています。法律論的に言えば、スコットランドは国の決定に逆らうことはできません。

 ただし、実は、イギリスではスコットランドなどの広域自治体に対しては、立法権にまで及ぶ分権化が非常に進んでいるのです。

 スコットランドの人たちにとっては、自分たちはEUと繋がる権限をもっているのだから、国の決定とは別の扱いにするべきだ、という議論になります。

 しかし、イギリスは成文の憲法を持たない不文憲法の国で、国会のつくった法律がそのまま憲法となってしまう国会主権の体制を採っています。つまり法律論から言うと、スコットランドに分権したのも国会ならば、それを取り上げることも、国会はできるのです。

 ただし、本当にそれをすると、選挙で与党が大敗北を喫することも考えられ、それが抑止力になっています。さらにイギリスには、国会がいったん地域に与えたものを奪い返すには相手の同意が必要という一種の慣習憲法(シーウェルの習律)もあるのです。

 そのため、イギリスの国民やスコットランドの住民たちが、どのような決着をつけるのかは、まだ、なんとも言えません。

 日本でも、沖縄にある米軍の普天間基地を辺野古に移設する問題は、国と自治体の対立になっています。

 国は、日米安保条約がある以上、アメリカの要求に応えざるを得ません。

 しかし、現在、日本の国土の1%程度の沖縄に、在日米軍基地の70%が集中することになっているのです。それはあまりにも不当であり、差別だと、沖縄県民は訴えているのです。

 そこで、沖縄県はあらゆる合法的な手段を使って抵抗しています。それを無駄なあがきだとか、沖縄は我慢しろというような議論がありますが、そんなことはありません。

 むしろ、沖縄は様々な手段を使って粘って良いのです。そうする権利があります。自治体は一定の抵抗をすることで、国の対外政策方向に変化を与えることができるからです。

 例えば、アメリカで、普天間の海兵隊をグアムに移動させる案が、また復活するかもしれません。日本にも、そうした案を支持する政権ができないとも限りません。

 いま、沖縄県が言論と合法的な手段で行っている抵抗は、実は、とても重要なことです。それは、国と自治体の「対話」のひとつの形だからです。

 スコットランドも、テロや独立にはしるようなことは抑えるべきでしょう。国と自治体の対話による決着こそが、いま、求められる民主主義のあり方なのですから。

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