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社会凝集力は偏見も生む。自分をもっと自由に解放してみよう!!

明治大学 政治経済学部 教授 鍾 家新

日本も中国も同じように歩んだ言語感情の歴史

 さらに、言語はナショナリズムの問題とも関わってきます。それは、他国との差別化において、言語がその象徴のように捉えられるからです。

 すると、他国の言語との比較において、ときには、自分たちの言語が劣っているという感情や、国家戦略上の打算が働くこともあり、言語に対して複雑な愛憎が生まれます。

 それは歴史を見ると、日本語を廃止する動きとして現れることもあります。例えば明治初期、日清戦争後、第1次世界大戦前後、第2次世界大戦後です。

 明治初期、新政府のエリートたちは、日本の様々な文化が欧米に劣っていると考え、欧米化を進めました。和服を洋服に着替えたように、日本語も廃止して英語を導入しようと考えたのです。つまり、明治期の頃は、エリート層ほど、日本語に対して劣等意識をもっていたということです。

 その案はギリギリのところで止められ、新たな日本の共通語をつくることとなりました。日本の共通語をつくることで、国民国家の体制を築こうとしたのです。

 ところが日清戦争で日本が勝ったことで、負けた中国の漢字をベースとして発展した日本語に対して、当時のエリート層は自尊心が許さず、やはり、日本語を廃止することを考えました。

 第1次世界大戦前後には、劣等感よりも日本の世界進出を前提として日本語の廃止の議論が起きました。漢字を使った特殊な言語である日本語では、植民地での統治が大変と考えたのでしょう。

 それが一変するのが、第2次世界大戦後です。今度は敗戦によって鼻を折られ、意気消沈して日本語の廃止を考えるのです。

 この状況がまた反転するのは、1960年代以降の高度経済成長です。日本社会は自信を取り戻し、以後、日本語を廃止する議論は起きなくなります。むしろ、1990年代にバブルが崩壊し、高度経済成長が止まると、今度は、日本人の自信を取り戻すために、日本語は美しいと言うようになります。

 実は、エリートたちが抱えていた日本語に対する劣等感は、一般民衆にはまったく無縁のものでした。むしろ、他国を知らないほど、自分たちのものが一番素晴らしいと思っている面があります。エリートたちは、今度はその感情を利用しているわけです。

 驚くことに同じことが中国でも起きていたのです。1920年代、劣等感から漢字を廃止する議論が起きました。ですが、1949年に中華人民共和国が成立し、経済が成長し始めると廃止の議論は抑えられます。しかし、旧来の漢字を簡略化した簡体字が作られるようになります。

 日本でもご存じの人は多いと思いますが、簡体字は旧来の漢字に比べると、ただの記号のような形です。例えば、毛筆で漢字を書いても座りが悪く、私にきれいとは思えませんでした。

 そののち1990年代になり、急速な経済成長により完全に自信をもった中国社会は、中国語の漢字は美しいと言うようになり、旧来の漢字である繁体字を見直す動きが出てきているのです。

 このように、言語に対する感情は社会の凝集力であるとともに、ナショナリズムの象徴として表れます。ときとして言語は、劣等感の対象となりましたが、同じような歴史の流れを、日本も中国も同じように歩んでいるのです。

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