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グローバル化は人を自由にする?アイデンティティを脅かす?

折方 のぞみ 折方 のぞみ 明治大学 経営学部 准教授

グローバル企業の論理は、国民国家の論理と時に対立する

 ヨーロッパでは、EU発足、そして共通通貨EUROの発行など、チャレンジングな形で域内統合が進められてきました。

 関税を撤廃し、EU市民の域内移動の自由を保障することによって、EU全体の国際競争力を高め、政治的にもヨーロッパ・スタンダードを作ること、また、米中露などに対抗できる発言力を持つことが、EU設立の大きな目的の一つでした。

 EUの設立発展においてドイツとともに中心的な役割を果たしてきたのがフランスですが、フランス国民は過度の域内統合の動きに対しては警戒心をもっています。

 2007年には、政治の域内統合を目指した「欧州憲法条約」が牽引国であるフランスの国民投票で批准否認され、世界に大きな衝撃を与えました。また、いわゆる「EUスタンダード」の導入によって、肉加工品やチーズなどの特産品の伝統的製法がEU基準の「衛生的な製法」への「改善」を求められるなど、様々な形で影響が出ています。ともすれば自国の文化的アイデンティティを脅かすようなこうした画一化の動きに対し、フランス国民は強い反発を示しています。

 他方、世界経済の急速なグローバル化の流れの中で、フランスのグローバル企業は国際競争力を保つために工場を中国や東南アジアに移して人件費を削減、結果的に北部の工業地帯は衰退し、多くの人が職を失いました。

 このように、グローバル企業の論理は時に、国家が国民の生活を保障する義務と対立するものとして現れます。

 そもそもグローバル企業はその利益を「国民」に還元するわけではありません。経済のグローバル化によって中産階級が没落することで格差が広がり、国民の生活基盤が根底から崩れてしまう現象が世界各地で起こっています。これはフランスのみならず、今や世界全体で共有され議論されるべき問題です。

 表現的に矛盾するようですが、欧州域内統合はある意味「閉じたグローバル化」の試みと言えるかもしれません。もちろん外部を意識している以上、それは本来の意味でのグローバル化ではありません。では一般的な意味でのグローバル化に外部はないのかといえば、疎外された人間の多さに鑑みると、これもまた「閉じたグローバル化」なのかもしれないと思わされるわけです。

 フランスのように社会民主主義的な価値観を持った国では、様々な困難を抱えつつも、政府は「大きく」あるべきだという考え方が根底にあるように思います。

 国家は国民と対話し、教育や福祉に予算を十分につけること。つまり、グローバル企業の自由な経済活動の保障よりも、国民一人一人の福祉を重視すべきだという価値観がそこには見受けられます。

 例えばフランスでは民間航空会社で職員が度々ストライキを起こします。利用者は不便や非効率性を訴えはしますが、最終的には各人の待遇向上を求めたスト権を互いに認め、ストを容認しています。

 また、政治を監視するのは市民=公民としての自分自身だという強い自覚を持つ彼らは、しばしば直接声をあげることで政治を動かそうとします。

 政府の燃料税増税案に反対して2018年11月下旬からフランス各地に広がった「黄色いベスト」運動にも、そんな国民性が垣間見られるのではないでしょうか。

 日本では破壊・暴力行為ばかりに焦点を当てた報道が目立ちますが、フランスではデモ活動は市民の当然の権利として受け止められています。マクロン大統領が対話の席を設けて妥協点を探り、燃料税についても当面据え置きにするなどの譲歩をしているという事実は記しておくべきでしょう。

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