Meiji.net

  • Share

過激派の主張がイスラーム全体の主張ではない

横田 貴之 もちろん、こうした理論や解釈を支持するイスラーム教徒も存在しますが、イスラーム教徒全体が支持しているわけでもありません。日本人が考える国境よりも、彼らの国境に対する感覚が「緩い」のは確かです。例えば、遊牧民たちは、いまでも国境を越えて移動しています。国境を越えた民族的・宗教的な連帯意識も、確かに存在します。だからといって、既存の国境線を否定し、統一的なイスラーム国家を求める声が主流なわけではありません。彼らには郷土愛も祖国愛も民族意識もイスラーム教徒としてのアイデンティティーもあり、それが上手く「ミックス」された形で共存しています。政治は宗教に干渉されるべきではないと考える世俗主義者や、ナショナリズムを重視する民族主義者でも、それと相反することなく、自分がイスラーム教徒である意識を強く持つことが多いのです。だから、自分がエジプト人でも、シリアやパレスチナでイスラーム教徒が迫害を受けていると考えれば、それは同胞の危機と考え、共感する人が多いのです。これは、日本人にはなかなかわかりにくい感覚かもしれません。

 そんな一般の人々にとって、失ったイスラームの領土(失地)を力で回復するなどという過激派の主張は、一見、良く聞こえるかもしれませんが、それは現実的ではない、時代遅れの考えだ、という受け止め方が一般的です。統一国家というような形でなくても、イスラームの連帯意識や共同体は成り立っている、という考え方が多いのではないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Share

あわせて読みたい