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「アメリカらしさ」に逆行する白人至上主義

矢ケ崎 淳子 矢ケ崎 淳子 明治大学 法学部 教授

アメリカらしさに学び、日本らしい多民族国家を築けるか

矢ケ崎 淳子  さて、こう考えてくると、トランプ政権の誕生によって息を吹き返してきたかのような白人至上主義者たちも、全てが厳密な意味で純粋な“白人”たちなのか疑わしくなります。もともとはアングロサクソン優越主義が社会の根底にあったので、白人というものは西欧・北欧出身者が中心で、東欧や南欧出身者などは含まれませんでした。しかし、今では純粋な意味でのアングロサクソンは少なくなり、“白人”の定義も非常に曖昧になってきています。今日の白人至上主義者たちの言動は、“白人”という概念を悪用したひとつの動きであると捉えることもできると思います。それはアメリカがこれまで努力して目指してきたものとは真逆のものであり、アメリカ社会にとって非常に危険な現象と言えるでしょう。

 移民政策に関してアメリカが行ってきた取組みは、とても特殊です。例えば、かつてのユーゴスラビアは、多民族国家といっても、それぞれの民族が融合することなく連合体として国家を形成していましたが、現在は民族ごとに分裂し、もはや一つの国家として存在していません。今日、ヨーロッパへ移民する人たちの多くは民族ごとに固まり、自分たちの言葉を使い、内なる外国とも言えるcultural enclave(文化的な飛び地)を形成して生活しています。外界と隔絶された「飛び地」の中では何が行われているかわからないため、地元住民は疑心暗鬼になり、それが偏見を助長し、差別を生みます。ところが、アメリカは19世紀の初頭から、ひとつの民族が固まって住むために土地を取得することを認めませんでした。つまり、多民族がそれぞれに独立したパッチワーク的な継ぎ接ぎ(つぎはぎ)の国家ではなく、多民族共生を目指したのです。これは、ある意味、ひとつの実験でした。どの民族出身者も(黒人の場合は公民権法成立まで他のマイノリティほど均等な機会が与えられてきませんでしたが)、まず英語という共通言語を学び、それによって様々な仕事に就くことができて、個々人の努力によって社会的成功を得ていくことが可能な社会をつくってきたのです。もちろん、民族が混じり合う社会には良い点ばかりでなく、悪い点もあります。しかし、世界各国で民族間の闘争や戦争が後を絶たない歴史や現状を見ると、アメリカ社会の実験はある程度成功し、そのために払ってきた努力は報われたのではないかと思います。それだけに、民族を区別し、融合や共生を否定する白人至上主義者たちの言動は、アメリカらしさを失わせるものだと私は思います。

 今後、もし、十分な国民的議論を経て、日本が国民的合意のもとで移民受け入れを拡大しようと考えるならば、アメリカが行ってきた取組みに学ぶべき点は多いと思います。柔軟性に富んだ日本人は受け入れるのが上手な反面、ホスト社会としての主張が下手な面があります。アメリカ社会で活躍して成功するためには英語が必須であるように、日本も、移民に対して日本語を含めた日本文化を学ぶことを求めることは必要ではないかと思います。それは移民してくる人々の人権を阻害することではなく、アメリカ人のように複層化したアイデンティティをもつことで、互いに理解し合い、日本での共生を成功に導くポイントになると思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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