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「アメリカらしさ」に逆行する白人至上主義

矢ケ崎 淳子 矢ケ崎 淳子 明治大学 法学部 教授

アメリカ人と民族意識の複層化したアイデンティティ

 アメリカ人は、アメリカ人であるというアイデンティティに加えて、民族集団・人種・宗教などに基づくアイデンティティを一般的に持っています。例えば、オバマ前大統領は、父親は黒人であり、母親はカンザス州出身の白人女性ですが、自分の出自として「黒人のみ」を選択しています。つまり彼は黒人にover-identifyしているのです。私が学部時代にカナダの大学に留学していた時に知り合ったアメリカ人学生は、父親だけがユダヤ系アメリカ人であるにもかかわらず、自分はユダヤ人だと言って、ユダヤ人であることに大きな誇りを持っていました。彼も自らの半分のユダヤ性にover-identifyしていたのでした。実際、多民族国家のアメリカでは異民族間の結婚は普通で、それもまたアメリカらしさです。生物学的観点から厳密な意味での純粋な白人や黒人も少ないのではないかと思います。アメリカのある大学では、遺伝的には自分が思っているような存在ではないかもしれないのでDNA鑑定を行って自分の遺伝的組成を知ろう、という人気のクラスがあります。見た目が黒人で本人も黒人であると認識していたのに、実際は遺伝的には52%がアフリカンで、48%はユーロピアンであるという結果が出た学生もいました。しかし、彼は、遺伝的には自分の半分は白人だと言われてもピンとこない、文化的には自分は黒人だ、黒人の集団に属している方が心地良い、と言うのです。人々はアメリカ人であると同時に、自らの人種・民族集団に属するという複層化したアイデンティティを持っていて、それを選択するのは彼ら自身なのです。

 アメリカ人は「アメリカは偉大で素晴らしい国だ」という無邪気とも思えるアメリカ礼賛とアメリカ人としての誇りを共通概念として持っており、それらが多様でバラバラなアメリカ人を一つにまとめているのだと私は思います。草の根のレベルでアメリカ人としてつながりながら、同時に自ら選んだ人種的・民族的アイデンティティを持っているのです。かつてアメリカ社会を象徴する言葉にmelting pot(人種の坩堝)がありましたが、今日ではsalad bowl(鉢に盛られたサラダ)の方が好ましいと思われています。アングロサクソン優位の社会においては、melting potと言っても、坩堝の中で溶け合った結果、アングロサクソン的なものに収斂して行くという意味があったのです。しかし、salad bowlには、多様な人種や民族がそれぞれの属性を失わずに調和するという意味があります。自らのアイデンティティを主張できる自由さとそれを受容する寛容さも、ここ50年ほどの間にアメリカが培ったアメリカらしさといえるでしょう。

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