
2021.01.13
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トランプ氏の顕著な特徴のキーワードは、3つの「こ」です。それは、「コスト」、「効率」、「公平・不公平」です。例えば、クリントン氏が戸別訪問を中心とした地上戦に力を入れたのに対して、トランプ氏はツィッターを効果的に使いました。戸別訪問は効果が高い反面コストがかかり、効率が悪いのに対し、ツィッターは低コストで瞬時にメッセージを拡散でき、効率が良いからです。また、トランプ氏のメッセージには常に不公平に対する怒りがありました。トランプ氏が「大統領選挙の仕組みはエスタブリッシュに有利で不公平だ」、「メディアは嘘つきで公平ではない」、ディベートの司会者にも「ヒラリーに肩をもっていて不公平だ」と怒りをあらわにするたびに、移民やエスタブリッシュに不満と不公平感をもっている白人労働者層は共感し、熱狂したのです。
従来のアメリカ大統領は、「民主主義」、「自由」、「人権」という共有の価値観に訴えました。しかし、トランプ氏の価値観は3つの「こ」に代表される、トランプ氏独自の価値観です。日本を含め世界は、これまで私たちが培ってきた共有の価値観にあまり価値をおかない新しいアメリカの大統領と交渉していかなくてはなりません。それが、どのような現象や事件を引き起こすのか、いまはまだ、予想不可能な部分が多いのです。
確かなことは、トランプ氏が勝ったことにより、世界で、反移民、反自由貿易体制、反グローバルの潮流が強くなり、文化的多様性に対する憎悪(hate)も高まったことです。クリントン氏は「Love trumps hate」(愛が憎悪に勝つ)をスローガンとして掲げました。しかし、そのクリントン氏が負けたいま、それでも、誰かがこの潮流にストップをかけなくてはなりません。オバマ大統領はドイツのメルケル首相にそれを期待しています。そのメルケル首相は、トランプ氏の勝利にあてた祝辞の中で、「トランプ氏がこれらの価値(民主主義、自由、権利の尊重、全ての個人の尊厳を重んじること)を我々と共有するならば、私はトランプ氏とともに働く準備があります」と語りました。オバマ大統領が期待したように、メルケル首相には希望があると、私も信じます。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。