先生は「公共」の授業で何をすればよいのか?
ここでは典型的な例として、「円安・ドル高」を「公共」の授業で取り上げるとしましょう。これまでは先生が、円安を「円の価値が下がり、一般的には輸入が不利になって輸出が有利になる」と解説していました。
しかし新科目「公共」の授業では、まず「なぜ円安になるのだろう?」「円安で損をする人と得をする人はどんな人だろう?」などの「問い」を立てます。続いて生徒が円安になる理由を説明できるように、先生は外国為替や需要供給曲線の概念を理解させたり、ヒントとなるデータや資料を与えるのです。
このように「公共」では、外国為替と需要供給曲線の概念を結びつけて「日本の市中銀行の金利が0.001%、アメリカの市中銀行の金利が5%のとき、円高になるだろうか円安になるだろうか?」を考えさせ、「なぜ円安になるのか」を生徒に説明させるような授業が求められているのです。
新学習指導要領の解説を詳しく読むと、「公共」はAからCの大項目に分かれていて、ホップ・ステップ・ジャンプとだんだん探究を深めるように組み立てられています。
最初に物事を考えるために必要な「見方・考え方」を習得し(大項目A)、それを使って高校生が持つ「問い」を解決し(大項目B)、最終的に生徒自らが「問い」を立てて調べる「課題探究学習」を行う(大項目C)という流れです。つまり「習得→活用→探究」という学習過程になっています。
ポイントは、大項目Aの「見方・考え方」を学ぶ段階から、概念などを暗記させるのではなく、生徒に考えさせたり使わせることが求められていることです。
学習指導要領では、生徒に身に付けさせる「見方・考え方」として、「幸福、正義、公正、個人の尊厳、自由、平等、寛容、委任、希少性、利便性と安全性、多様性と共通性、協働関係の共時性と通時性、比較衡量、相互承認、適正な手続、民主主義、自由・権利と責任・義務、平等、財源の確保と配分、平和、持続可能」などがあげられています。
たとえば「幸福」や「公正」の「見方・考え方」を身に付ける時には「(非)帰結主義」「功利主義」「義務論」といった哲学の概念を理解させる必要があります。しかし、ここで「功利主義とは『最大多数の最大幸福』のことだ。テストに出るから覚えておくように」というような授業をしてはいけません。
たとえば、有名な「トロッコ問題」のような思考問題を使って、「功利主義がよいか義務論がよいか?」を生徒に議論させるような学習活動を行うことが学習指導要領では示されています。すなわち、概念や知識の習得においても生徒にしっかり考えさせ、それらを「使える」ようになってほしいのです。
新科目「公共」の授業に求められているのは、自分で考えて「現実社会の課題」を解決できる力の育成です。それは、混沌としている21世紀後半の社会で求められる力を養うことになると私は考えています。
ですが一方で、教育現場では、「そのような授業をしていては時間が足りない」という批判や懸念の声があります。続いて、そうした先生側の事情などについて考えてみたいと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。