
2022.06.28
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
また、結晶化などの実験をするとき、大切なのは、先入観をもたずに、目の前で起こった現象を正確に捉えることです。
例えば、美味しいかき氷を作るための氷の作り方を質問されたことがあります。家庭の冷凍庫で作った氷が美味しくないのは、おそらく、カルキ分などの不純物が含まれる水道水を使うからです。氷の結晶自体は純粋なH2Oですが、氷の固まりの中に、水に融けていた空気が泡として閉じ込められるように、不純物も閉じ込められてしまうのです。
そこで、ミネラルウォーターを使い、気泡のない透明できれいな氷と、同じミネラルウォーターですが炭酸入りで、無数の気泡によって真っ白く濁った氷を作り、かき氷を作る実験をしました。
多くの人は透明な氷の方が美味しいと予測しますが、かき氷にして食べてみると、気泡だらけの氷で作った方がふわっとした食感で口どけが良く、すごく美味しいと感じるのです。
もちろん、美味しいとは個人の感覚で、結晶の科学の立場で説明できるものではありませんが、気泡だらけの氷から作ったかき氷がふわっとした食感になる理由は、削った氷が気泡による穴あきだらけで表面積が大きく、口に入れたときに融けやすいからだと説明できます。
このように先入観にとらわれず、目の前の事実を正確に受け入れれば、因果関係をシンプルに説明できるようになります。
私は、天然ガスの主成分となるメタンと水による結晶であるメタンハイドレートの研究も進めています。
海底の地中に形成されたメタンハイドレートは、一様の形ではなく、粒状であったり、針状、層状、塊状があります。なぜ、メタンハイドレートは様々な形に成長するのか。
それは、ほかの結晶ができるときと同じように、結晶化に必要な物質が周囲にどれだけあるか、それらをどれだけスムーズに集めることができるか、また、土の中での結晶化であるため霜柱ができる原理も考慮して、私たちは、その因果関係をチャート化した「ハイドレート結晶の形のダイヤグラム」を作りました。
メタンハイドレートの成り立ちや生成の研究は、地球環境やエネルギー資源の問題に係わっていく研究になると思います。でも、その出発点は、先に述べたような、氷や塩の結晶をはじめとした、身近にある様々な結晶という現象に対する、なぜだろうという好奇心です。
すると、そこには共通の基本原理があることや、結晶の一枚の画像が、木の年輪のように、そこに至る時間発展の様子を表していることも見えてきます。
そのためには、難しい知識や数式などが必要かといえば、必ずしもそうではありません。中学生でも高校生でも、それぞれの段階で習った知識で考え、理解することができます。
それは、社会人の皆さんでも同じです。なぜだろうという好奇心を大切にして基本となる知識をもとに考えてください。それが、あなたの世界を広げたり、論理的な思考力を育む助けになると思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。