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多様な世界に飛び込み自分の殻を破るために、いまこそ留学

小林 明 小林 明 明治大学 国際日本学部 准教授

語学力以上に、多様な能力を身につけられるのが留学の成果

 国際教育には様々な取組みがありますが、最も効果的な取組みの一つは、海外留学といえるでしょう。海外で暮らし、学ぶことは、異文化や自分と違うものに対する感覚を研ぎ澄まし、国際感覚や異文化理解を磨くことにつながるからです。日本では、留学というと、いまでも語学留学のイメージが強いようです。学生たちに留学の目的を尋ねても、生きた英語力を身につけるというような答えがほとんどです。ところが、実際に留学してきた学生に体験談を聞くと、語学について語る者はまずいません。例えば、アメリカのディズニー・ワールドで有給のインターンシップとして5ヵ月間過ごすというプログラムに参加した学生がいます。彼は、給料をもらってディズニーのキャストとして働くのですから、世界中から訪れるお客さんと真剣に接しなければならないのはもちろん、これもまた世界中からやって来たキャストたちに揉まれながら生活するのです。まさに多文化の坩堝に放り込まれたようなものです。その中で、ときには自分の存在を全面的に否定されたり、逆に、自分を認めてもらえたりするような体験を繰り返すのです。すると、帰国したこの学生は、まったく別人のようになっていました。積極性や自己のプレゼン力が格段に高まっていたのです。それが顕著に表れたのが、就活のときです。彼は面接を怖がりませんでした。豊富な自己の体験に基づいて話すので、話が途切れず説得力があります。グループ面接のときには、あなたはちょっと黙っていてくれと言われたほどだったようです。こうした積極性やコミュニケーション力の格段の向上こそが留学の成果で、経験者にとっては、語学力はあって当たり前ぐらいのものなのです。ところで、経団連などの調査によれば、「留学経験」は新入社員の採用要件の中で最下位に近いようです。それだけを見ると、留学は就活に役立たないように思えます。ところが、その要件の上位にあるのが「コミュニケーション力」や「積極性」です。つまり、留学経験そのものが問われることはありませんが、それによって身についた能力が貴重なのです。実際、留学経験者の中には、複数のいわゆる一流企業から内定を得ることも少なくないのです。

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