
日本の全企業の99.7%を占める中小企業のうち、その84.5%が「小規模事業者」です。従業員20人以下(卸売業・サービス業・小売業では5人以下)という規模ながら、日本経済にとって欠かせない存在ですが、人口減少に伴って国内市場が縮小するなかで、どのようにすれば事業を継続・発展することができるのでしょうか?
人材不足の中小企業、成功・失敗をわけるのは?
小規模事業者というと、一般的には街の小売店や個人経営の飲食店、理髪業などを思い浮かべるかもしれませんが、製造業や建設業、運送業においても非常に多いのをご存知でしょうか。とりわけ従業員数4人以下の割合が多く、総務省統計局『平成26年経済センサス‐基礎調査』によると製造業で約60%、建設業では約70%に達するとされています。
こうした小規模事業者は独立して活動しながらも、事業協同組合や商店街振興組合といった企業集団を形成し、経済活動の維持・発展に取り組んでいますが、人材不足や事業承継は長年直面し続けている課題です。
もともと中小企業における人材不足は、人口減少が表面化する以前から指摘されていました。たとえば団塊の世代が定年(65歳)を迎える「2012年問題」や、70歳を迎えて経営者として引退し始める「2017年問題」が取り沙汰されてきましたが、そもそも中小企業においては、それ以前から人材の採用や定着が困難になるという問題が常態化していたのです。
現場での調査やアンケートから分かったのは、中小企業における人材不足(採用難)は、人口減少に伴って生じたわけではなく、長年にわたる懸案事項であり、採用及び人材の定着に成功している企業と失敗している企業との格差が年々拡大しているということでした。
この差は偶然ではなく、各中小企業の取り組みの質によるものだと考えています。具体的には、成功している企業は独自の戦略を持ち、社員教育や研修に力を入れています。一方、失敗している企業は、求人広告やハローワークに頼るだけで、自社ならではの採用アプローチが不足しているものと考えられます。
人材の採用と定着に成功している企業には、いくつかの共通点があります。一つは、採用活動と社員教育を密接に結びつけていることです。採用を専門に担当する部署や人材を配置し、経営陣や中間管理職が主体的に取り組んでいます。また、現在の従業員が「自分の会社は働きやすい」と外部にアピールし、知人やネットワークを通じて新たな人材を呼び込む力も重要です。
働き方の価値観の変化への対応も見逃せません。かつての「24時間働けますか?」の時代は過ぎ去り、働きがいや生きがいを求める時代へと移行していますが、その中で成功している企業は、従業員にとって仕事の時間が「価値ある時間」であると感じられるような仕組みを構築しています。単に業務をこなすだけでなく、その中に意義や達成感を見出せる環境を作ることが、持続的な会社運営のポイントだと考えています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。