中小企業にこそ求められる自働化・IoT化・DX
社員数が少ない中小企業であっても、事業が魅力的であれば、家族や社員、さらには顧客の中から「事業を継ぎたい」と名乗りを挙げる人が現れることがあります。私たちの調査でもそのような事例を確認しています。
たとえば、群馬県桐生市にある1877年創業の老舗織物メーカー「森秀織物」では、創業一家の森島家が代々経営を引き継いできましたが、現在の代表取締役社長は娘婿の長谷川さんです。彼は元々東京の床暖房会社に勤務していましたが、結婚を機に妻の地元である群馬へ移住し、森秀織物に入社しました。
先代の森島社長は、自分の代で会社を終わらせるつもりだったそうです。しかし、長谷川さんが工場や織物参考館を初めて見た際、その価値に深い感動を覚え、「これを自分の代で途絶えさせるのはもったいない」と感じたことが後継者になるきっかけとなりました。現在では、同社を引き継ぎながら、伝統的な人形衣装や歌舞伎衣装の復元を手掛けるなど活躍されています。
国内市場の縮小が進む中、中小企業には大企業とは異なる持続可能な方法論が求められるでしょう。地域の中小企業は事業規模が小さい分、全国規模の展開は困難と思われがちですが、その特性を活かし、新たな流通チャンネルを開拓することで成長の余地があります。
たとえば、埼玉県秩父市の「秩父中村屋」という大正13年創業の和菓子店では、元々観光客向けのお土産品を主力としていました。しかし、2007年に販売を開始した「ちちぶまゆ」という繭の形をしたマシュマロ菓子が大ヒットしました。この菓子は地元産のメープルシロップ(カエデ糖)を使用しており、モンドセレクションで3年連続銀賞を受賞しています。メディアにも取り上げられ、その結果、全国規模の小売店でも取り扱われるようになりました。
従業員数5名という小規模な同社は、このヒット商品をきっかけに生産量の増加を求められましたが、ここで注目すべきは生産の自動化への取り組みです。社長の中村さん自身が製菓ロボットの知識を持っていたため、外部委託に頼ることなく自社内で自動化を実現しました。これにより少人数でも効率的な生産体制を構築し、さらにオンラインを活用して全国への販路拡大を進めました。秩父中村屋は、小規模事業者における生産設備と工程のIoT(モノのインターネット)化の好例です。
また、愛知県のある中小企業では、無料で利用可能なITツールを活用して、自社独自のDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現していました。投資コストと時間を抑えるために、外注せず、可能な限り内製化することによって、業務フローの自動管理化や効率化を図るこの取り組みは、他の中小企業にも参考になるでしょう。
また、企業の持続的経営の面からも、中小企業の経営者が周囲から孤立してしまうことは好ましくありません。従業員との信頼関係構築に加え、同業者や異業種の経営者とネットワークを築くことが重要です。これにより、現場で得られる加工されていない生の情報を収集でき、自社に役立つ新たな視点を得られることもあります。
取引先や顧客には言いにくいことでも、こうしたネットワークでは自由に意見を交わせることが多いです。このような場を積極的に利用し、手間暇を惜しまず継続的に取り組んでいる中小企業ほど成功を収めていると感じます。
このように、人口減少下における中小企業にとって、第一に事業の魅力を高めること、そして自社独自の工夫を活かした取り組み、人材不足(採用難)の解決に資する自働化・AI/IoT化、さらには広範な人的ネットワークの構築が重要です。これらが持続可能で発展的な経営の鍵になると考えます。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。