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2024.02.08

ESGやサステナビリティだけ分析しても意味がない?

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ESGの分析は企業に「稼ぐ力」があってこそ

 非財務情報に対するニーズの高まりは世界的な流れであり、日本でも2023年3月期から、法令で提出が義務付けられている有価証券報告書へのサステナビリティ情報の記載が要求されるようになりました。また、財務情報と非財務情報をまとめて持続的な価値創造の仕組みを示す統合報告書(作成・公開は任意)を発行する企業数も増加しています。

 しかしながら、個人的には最近、非財務情報を重視するあまり、従来からの財務分析や定量的な分析、企業や業界そのものの調査に割く時間が減っていることが気になっています。

 ESGやサステナビリティの分析は、それはそれで重要ですが、企業本来の「稼ぐ力」を分析せずにこうした情報だけを評価するようでは本末転倒です。稼ぐ力=投下資本利益率の低い企業がいくらESGに注力しても投資家はリターンを得られません。また、開示を行う企業も開示自体が目的化しており、その取り組みが自社の企業価値にどのように影響するのかについて考える余裕がなくなっているのも問題だと思います。

 ESGやサステナビリティへの取り組みの意義は、第1に、企業がビジネスを行う将来の市場を棄損することなく保全し、持続的に成長するためにあります。第2に、ガバナンスを整備することによって、企業の価値を適切にステークホルダーへ配分して、さらに投資家から長期的に投資をしてもらう好循環を作り出すためにあります。

 近年強化されているガバナンスの仕組みのなかで特に高い関心を持たれているのは、取締役会における社外取締役の役割かと思われます。たとえば、2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、プライム市場上場企業は「独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(必要と考える場合には過半数)選任する」との指針が示されました。

 実は、学術研究においては、社外取締役は企業パフォーマンスにプラスの影響を与えるとするものもあれば、ないと結論づけるものもあり、その効果は明確ではありません。

 しかし、私の研究(2021年)では、社外取締役の比率が高い企業ほど総合的なディスクロージャーが良いということが明らかになりました(2013〜2018年の分析)。これより、昨今の社外取締役を積極的に増やす取り組みには一定の効果があり、投資家にとって好ましい情報環境を醸成しているといえます。

 ディスクロージャーの改善は、アナリスト・カバレッジの増加や株式流動性の改善などをもたらし、最終的には企業価値の改善につながります。今はまだ道半ばかもしれませんが、ESGなどを意識することは、将来的に企業にも投資家にも、それ以外のステークホルダーにもメリットになると考えられます。いずれにせよ、流行へ形式的に従うのではなく、ESGが本業や企業にもたらす意義をしっかり認識することが重要です。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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