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2024.02.08

ESGやサステナビリティだけ分析しても意味がない?

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アナリストを拡充して「投資しやすい国」へ

 私はディスクロージャーのなかでも、企業自らが公表する「業績予想」(いわゆる経営者予想)を研究の対象としています。業績予想は通常、期初に公表され、変更がある場合、期中に適宜修正が行われます。日本においてはほとんどの企業が業績予想を開示しており、これは他国にはない優れた仕組みであると考えます。

 一方で、業績予想は企業から見ると非常に手間のかかる開示であり、相次ぐ非財務情報等のディスクロージャー強化やショートターミズムを抑制する目的から、これを簡略化しようとする動きがあります。より正確に言うと、従来画一的に開示させていたものを企業の裁量にゆだね、売上や利益以外に設備投資や減価償却に関する情報も予想の情報として認め、開示する・しないも企業の判断に任せるようにしたのです(2012年度より実施)。

 この影響は当初それほど大きくありませんでしたが、結果的には開示情報を充実させた企業よりも削減した企業のほうが多くなってしまいました。また、コロナ禍を経てさらに情報開示の仕方に変化が生じています。

 では、仮に企業による業績予想が開示されなくなったのなら、それをカバーする情報は存在するのでしょうか。この答えとしては、証券会社に所属するアナリストがレポートを公表するにあたって作成する「アナリスト予想」が挙げられます。外部の専門家の視点で企業を分析し情報を発信するアナリストの存在は、国内外の投資家にとって非常に有益です。

 ところが、私が研究書を執筆する際に調査したところ、米国では約8割の上場企業にアナリスト予想があった一方で、日本でアナリスト予想がある上場企業は4割程度にとどまっています。

 これは、米国が古くから直接金融が発達しており、必要なインフラとしてアナリストが整備されたのに対し、日本では間接金融が中心的な役割を担ってきたことが理由のひとつであると考えられます。さらに、経済の停滞やパッシブ運用へのシフトなどの流れもあって、依然としてアナリストは増えづらい状況が続いています。

 アナリストの拡充に関しては、従来は証券会社や運用会社の独自の取り組みに任せてきました。しかし、金融市場の情報環境整備の一環として、海外投資家が投資をしやすい環境を整備するためにも、今後は証券取引所や政府が中心となってアナリストの拡充に向けた取り組みを検討しても良いかもしれません。

 その他、企業のディスクロージャーをめぐる近況としては、2021年10月の岸田総理大臣の所信表明演説などで言及した「決算の四半期開示の見直し」の議論があります。日本に限らず、開示義務を廃止すると開示は行われなくなる傾向があるので、投資家に不利益のないような見直しが必要と考えられます。なお、欧州では四半期決算の開示義務は撤廃されましたが、多くの企業では四半期開示を継続しているようです。

 繰り返しになりますが、ESGやサステナビリティなどの非財務情報は非常に重要な情報です。しかし、これらは企業そのもののビジネスモデルや稼ぐ力があることが大前提です。そのため、根底にある企業分析は引き続き重要であると私は考えています。

 さらに、業績予想に関しては海外にはない日本の誇るべき制度です。良さを理解した上で、今後も発展させていくことができれば良いと思いますし、同時に日本でもアナリストがもっと増えると投資家にとっても企業にとってもメリットが大きいと考えます。


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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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