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自社のあり方は自分たちが決める。それがパーパス

古川 裕康 古川 裕康 明治大学 経営学部 准教授

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現代社会は不安定で、複雑で、曖昧な部分も多く、思いもよらないことが突然起こるような社会になっていると言われます。こうした社会の中で、企業が存続し成長していくには、どうしたら良いのでしょう。それは、企業が社会とどう関わるか、そのあり方にあると言います。

従来のCSRではVUCAの時代に対応できない

古川 裕康 いま、様々なことが不確実で、なにが起きるのか予測が難しく、その影響が思いもよらない形で波及する状況が地球規模で広がっています。こうした状況はVUCA(ブーカ)と言われます。

 その背景には、気候変動による異常気象や、コロナに象徴されるようなパンデミック、さらに、AIなどの科学技術の急激な進展、政治的な対立や経済格差、など複雑に絡み合った様々な要因があります。こうしたVUCAの状況に対応できない企業は淘汰されていく状況です。

 ならば、あらゆることにアンテナを張り、変化に素早く対応していくことが必要なのか。確かに、様々な変化に対応していくことは必要ですが、それに振り回されては、まさに本末転倒です。

 実際、データドリブンとか、ビッグデータ、AI、DXなど、いま注目と言われることに飛びつき、結局は周りに合わせて右往左往しているだけの企業も多く見られます。そのような企業は短期的には成果を上げますが、長期的に成長していくのは難しいでしょう。

 むしろ、重要なのは、企業とはなんのために存在し、活動しているのか、それを明確にすることです。

 もちろん、収益を上げていかなければ企業は存続できません。そのためには、従業員を募り、取引先や株主、金融機関との関係を築き、顧客を広げていくことが必要です。

 しかし、VUCAの時代にあって、自分の収益のことだけを考える企業に、こうしたステークホルダーたちはついてくるでしょうか。

 労働者にとっても、消費者にとっても、金融関係者にとっても、状況はVUCAなのです。なにが起こるのかわからない状況の中で共に生きていくためには、信頼しあえることが大事です。

 以前から、CSR(企業の社会的責任)は重要であると言われていました。その一環として、例えば、企業による文化活動などの支援が盛んに行われました。それはそれで、社会や市民生活を豊かにしたと思います。

 しかし、企業にとって、このCSRとは収益の余力を社会に還元すること、要は、コストをかける一種の負担と捉えていたと思います。だから、還元するもしないも企業の考え方ひとつですし、余力がなくなれば手を引くのも企業の当然の判断です。

 つまり、企業の社会的責任と言いながら、実は、確実性も持続性も担保されておらず、企業側が、余力があるからなにか貢献してあげる、という上から目線で社会とコミットメントしていた形だったと言えます。そのようなCSRに本当の信頼は生まれるでしょうか。

 では、企業がステークホルダーたちとの間に信頼を築き、社会の中で存在意義を示しながら、成長、発展していくためにはなにが必要なのか。そのひとつの答えとして、注目されているのがパーパスという考え方です。

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