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ESG経営が新たな発想を生む

 ESG経営は世界中の企業にとっての課題ですが、例えば、中国では、特に、環境問題に関心が高まっています。

 それは、中国では、特に、大都市での大気汚染が大きな社会問題であったからです。一時は、街を歩いているだけで目が痛くなったり、息が苦しくなる状況もありました。

 そこで、政府は、自家用車による移動や工場の操業を規制したり、郊外で植林を進めるなどの対策を行ってきました。その結果、大気汚染は非常に改善されました。

 そうした取り組みとともに、温暖化や気候変動が世界的に問題となってきたため、同時に、CO2の排出規制にも積極的に取り組むようになっているのです。

 それに関わる省エネ技術や、環境への低負荷技術は日本が先行しているため、その分野での日中間の協働は実現しやすい状況にあると思います。

 実際、日本の大手自動車メーカーが中国に研究所を建て、中国社会の事情に適した省エネルギー車の開発を進めています。

 また、再生可能エネルギー導入のために、中国西部の砂漠地帯に大規模な太陽光発電や風力発電の施設を造っています。

 問題は、砂漠地帯で発電した電気を遠く離れた東部の大都市に送電すると、電力損失が起こることです。そのため、中国ではスマートグリッド(次世代送電網)の技術に関心が高まっています。

 逆に、例えば、データセンターなど、電力をたくさん消費する施設を、その砂漠地帯に建設する構想があります。安い電気代で施設を稼働させることができるため、このアイデアの実現を視野に入れている日本企業もあります。

 要は、SDGsやESGの考え方で発想すれば、それは従来にはなかったビジネスチャンスを生むきっかけになるのです。

 もっと身近なイノベーションもあります。例えば、商品の過剰包装は日本では長い間の課題でしたが、なかなか改善されません。人は、大きな問題がなければ現状維持を好むからです。

 でも、SDGsやESGを理由にすれば、企業にとっても、消費者にとっても、過剰包装の改革を納得して受け入れられやすくなるのではないでしょうか。

 要は、一流企業だから立派な包装をしているという常識を、一流企業だからこそシンプルな包装をしているという常識に変えるチャンスなのです。

 ESG経営は、従来の考え方であれば、企業にとって無駄や負担と捉えられがちになりますが、逆に、リスク管理やイノベーションのきっかけと捉えることができるのです。そうした発想が、企業の持続や成長に繋がっていくのです。

 私たちも、身の回りのことをSDGsやESG的な発想で捉えてみると、気がつかなかった無駄を発見したり、惰性で流していたことを変えるきっかけがつかめるのではないかと思います。


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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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