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小売業を改革するのは、小売業の「ものづくり」!?

戸田 裕美子 戸田 裕美子 明治大学 国際日本学部 准教授

継承される設立の理念

 西友の一事業であった無印良品は、1989年に株式会社「良品計画」として独立しました。

 バブル絶頂期にあった当時の日本では高級ブランドが一気に普及しましたが、一方で、商品の実質よりもブランド名のロゴの方が価値をもつような消費のスタイルに疑問をもつ消費者は、無印良品が提供するシンプルで品質本位の商品を強く支持するようになりました。

 良品計画として独立したことで無印良品の販路は拡大し、また1990年代初頭から英国で無印良品のシンプルなデザインが人気を博し、良品計画は間もない時期からイギリスに複数店舗を開店し、1990年代末にはヨーロッパ諸国に出店しました。現在では、ヨーロッパやアメリカ、アジア諸国を中心に海外展開をしており、全店舗数の半数以上が国外店舗で占められています。

 海外の人にとっては、素材を活かし、無駄をそぎ落としたMUJI(海外ブランド名)のシンプルな商品は、日本的なエキゾチックさを感じさせるとともに、SDGsやサステナビリティにも通じる次世代的な商品群と見られているようです。

 堤氏の無印良品にかける思いや理念は、現在にいたるまで引き継がれていると言えます。実際、設立当初から続くアドバイザリーボードといわれるメンバーが、無印良品の理念の守護神となり、良品計画のものづくりの思想や理念を守り、継承しています。

 また、良品計画の従業員に対して、「ムジグラム」といわれる、いわば業務マニュアルが作られ、顧客との接し方、提案の仕方、消費者のニーズや価値観の捉え方など、具体的な業務の中に良品計画の思想を織り込むような形で経営理念の継承が従業員にも行われています。

 今日、パーパス経営というような概念に注目が集められ、企業が何を目的とし、どのような存在意義をもって社会に貢献できるかが問われています。良品計画は「感じの良いくらしと社会」という理念のもと、無印良品の商品開発や販売にとどまらず、企業のコンセプトを提供することで社会事業にも積極的に参画しています。無印良品とはどうあるべきか、この堤清二氏の問題意識が、現在の良品計画においても問われ続けています。良品計画は、企業理念の創造と伝承という観点からも、非常に興味深い企業であると思います。

 これまで述べてきたダイエーやセゾン・グループの歴史が、私の現在の研究テーマです。1980年代に活躍した小売企業に注目して、その歴史について研究をしています。いまさら、ダイエーやセゾンのような、衰退した企業を対象にして、歴史研究をして何の意味があるのかと問われることがあります。オンライン小売業のような最先端の研究をされている研究者はたくさんいますし、一人ぐらい昔のことを掘り下げる研究者がいてもよいだろうと思いますので、私は今後も1970年代から1980年代のスーパーについて研究していきたいです。

 私は1970年代半ばに生まれましたので、総合スーパーや百貨店は、買い物をするだけの場所ではなく、いろんな娯楽施設や飲食店が併設されていたりして子ども心をワクワクさせてくれる非日常的な空間であったという記憶があります。もしかすると単なるノスタルジーかもしれませんが、子供の心をワクワクさせる場所であった総合スーパーや百貨店の姿を書き残しておくことは、オンラインでの買い物行動が一般的となっている現代において、意味のあることかもしれないという思いがあります。

 歴史研究は、単に過去に起きた出来事をなぞるだけと思われがちですが、丁寧に歴史を遡ってみると、一般的な見方とは違った歴史の側面が見えて新しい発見があるものです。歴史研究はタイムトリップのようなところがあり、歴史の分析を通じて過去と現在の対話ができることが面白味です。まだまだ駆け出しの研究者ではありますが、今後、何らかの日本の小売業における歴史の見方を覆すことができるような発見ができるよう、精進したいと思っています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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