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小売業を改革するのは、小売業の「ものづくり」!?

戸田 裕美子 戸田 裕美子 明治大学 国際日本学部 准教授

独自のPB開発をめぐる試行錯誤

 そもそも、アメリカのスーパーマーケットの経営思想から多大な影響を受けていた中内氏は、アメリカの大手流通企業でPB開発の生みの親ともいわれるシアーズ・ローバックとの提携を考えていたようです。ところが、当時、セゾン・グループを率いていた堤清二氏がシアーズとの提携を先に結ぶのです。

 先を越された中内氏がヨーロッパに目を向けたときに、M&Sを見つけることになります。実は、M&Sも、1910年代の終わり頃に当時の社長のサイモン・マークス自身がアメリカに渡り、シアーズ・ローバックのPB開発を学んでいたのです。PB先進企業であったシアーズ・ローバックとの提携は断念したものの、英国で独自のPB戦略を展開していたM&Sから学び、ダイエーのPB開発に品質重視という新しい方向性を与えようとしました。

 こうして、1970年代から80年代にかけて日本の流通業を牽引していたダイエーとセゾン・グループが、同じように本格的なPB開発に注力していたわけですが、この二つの企業のPB戦略は全く違った歴史を辿ることになります。

 中内氏はM&Sから品質重視のPB戦略を学び、それをダイエーに移入しようとしましたが、残念ながら、この試みは失敗に終わります。詳細はオンラインでもダウンロードすることができますので、拙稿(2014)をご高覧いただければと思いますが、議論を単純化していえば、中内氏の思いや理念が、当時のダイエーの経営幹部たちにも正しく伝わっていなかったり、ダイエーのPB開発は現場の個々のマーチャンダイザーに任せられ、企業として統一的なブランド・コンセプトを構築するような形では展開されませんでした。

 結局、ダイエーは、低価格販売の手段としてのPBという思想から脱却することはできず、独自のアイデンティティをもったPBを確立することはできませんでした。その意味では、中内氏の流通改革は志半ばであった、と言えるかもしれません。

 一方、セゾン・グループを率いた堤清二氏には、PBを独自のブランドとして育てようという強い意志がありました。西武百貨店を経営し、新進のヨーロッパの高級ブランドを次々に日本の消費者に紹介して、ファッションの西武というイメージを確立した堤氏は、次第にブランド・ロゴがつくだけで商品価格が何割も高くなる高級ブランドのビジネス・モデルに疑問を抱くようになります。そこで、西武百貨店で独自のPB開発を試みようとしますが、納入業者の支配力の強い百貨店では不可能であることを理解します。そこで、セゾン・グループ傘下の西友というスーパーマーケット業態で、PB開発を意欲的に推進しました。

 堤氏は自らの思いや理念を形にしていくために、デザイナーなど外部のクリエイターを起用し、PB開発チームの中核に据えます。その辺りの詳細な歴史については、拙稿(2022)をご高覧いただけると幸いですが、PBだからといって質を落として低価格の商品を提供するのではなく、あくまでも質本位でリーズナブルであることが、消費者に対する新しい価値の提案であり、それがPBであるという考え方から、独自のPB開発に尽力しました。

 そうした取り組みを続ける中から、ブランドの権威と、その象徴であるヨコ文字のブランド名を否定したいという発想の下に、1980年に「無印良品」というブランド名が生み出されました。

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