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補助金を巡る意識改革が必要

石津 寿恵 石津 寿恵 明治大学 経営学部 教授

国際会計では、補助金は「負債」

 補助金を収益と捉える意識は、会計処理から来ている部分があるのではないかと思います。

 一般企業などでは会計上補助金は収益として扱われます。それは当然ではないか、と思う人も多いと思います。しかしこの話には続きがあります。なんらかの施設設備取得のために1億円の補助金を受けたとすると、まず会計上、その1億円は企業の収益として扱われます。そしてそれに続いて、同額1億円が圧縮損ということで処理されるのが一般的です。これは簡単に言うと、補助金と同じ額の費用を計上して、補助金による収益をゼロにするようなやり方です。この処理の意味や効果についてここでは触れませんが、こういったやり方であれば貰ったという意識が生じ、また、本来の役割に注意を払わなくなってしまうのではないでしょうか。

 ところが、例えば独立行政法人(国立大学、造幣局など)などでは、このような補助金を「負債」として扱います。これは、どういうことなのでしょうか。

 例えば、公益サービス提供のための施設設備(10年間利用)を1億円の補助金を受けて建設した場合、法人はまずその1億円を負債として扱います。そして建設後、公益サービスの提供を続けることにより、その負債を1年ごとに1千万円ずつ10年間にわたり取り崩して、その分を収益としていくのです。

 つまり、補助金をもらったものと捉えるのではなく、本来目的の公益サービスを提供することを条件に「前もって受け取った」(前受金的意味。負債)と捉えます。すると、公益サービスを提供し続けなければ、負債を減らしていくことはできないことになります。つまり、事後的活用に注意を払わざるを得なくなります。施設を建ててそれでおしまい、ということにはならないわけです。

 もちろん、こうした法人と一般の企業では、設立の目的も、社会的役割も違う面があります。しかし、国際会計においては、一般企業において補助金を負債の部に計上する繰延収益というやり方が主流になっています。ここでは補助金には支給する目的があり、受け取った企業にはその目的を果たす義務があり、その義務を果たすことによって、初めて補助金を収益とみなす、という考え方が採られています。

 この考え方は、企業の社会的責任やSDGsの促進にもつながるものです。日本においても、補助金を「負債」とするようなやり方を検討することは時代に適ったことではないでしょうか。

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