イノベーションを抑制する規制は本末転倒
イノベーションは、それを起こした企業による市場の独占を生みます。これは、完全競争市場こそが効率的という経済学の理論的命題からすると、善い市場とは言えません。
しかし、イノベーションによって起こる市場の独占は、ある意味、当然なのです。
企業がイノベーションを起こすモチベーションは、それによって大きな利益を得ることが期待できるからです。それは、イノベーションによって新しい価値を創出し、市場で競争することなく、市場を独占することによって実現されます。
実際、冒頭に述べたようなネットを通じた私たちの生活は、いま、GAFAと呼ばれる巨大プラットフォーマーに独占された市場によって成り立っています。
彼らは、個人情報が私たちの満足感を高めるための重要なファクターであることを認識し、それを収集、分析、販売する仕組みをいち早く構築しました。
それによってGAFAが市場を独占したことは、まさにイノベーションを起こすことに成功したことを表しているわけです。
しかし、巨大プラットフォーマーの独占を規制する動きが、いま、世界中の国で起きています。
確かに、いきすぎた独占を規制することは必要だと思いますが、いきすぎた規制もまた問題だと思っています。
例えば、イノベーションによって起こる市場の独占は、一方で、イノベーションを起こすインセンティブです。それを否定するような規制は、イノベーションの否定に繋がりかねません。
市場の独占を懸念するのは、それが、次のイノベーションの妨げになる恐れがあることです。
実際、競争度とイノベーションの実現確率は逆U字の関係にあることがわかっています。競争度を高めすぎても、独占によって競争度が低くなっても、イノベーションは起こりにくくなるのです。
つまり、規制を行うのであれば、イノベーションを起こすインセンティブをどう設計するか、という観点から行うべきなのです。
そのとき重要なのは、介入のバランスだと思います。
実は、イノベーションの経済学はまだ歴史が浅く、正確なエビデンスを提供できるレベルに至っていません。
しかし、過去の事例を検証している中で言えることは、規制がなくとも、市場原理によって、独占状態に競争が起きてくるということです。
確かに、規制によってその速度を早めることができるかもしれません。しかし、決して見失ってはいけないのは、イノベーションが起きないと経済はもちろん、社会の成長はないということです。
イノベーションを抑制するような規制は、本末転倒なのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。