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働く高齢者の満足度を上げるための秘策あり

永野 仁 永野 仁 明治大学 名誉教授(元政治経済学部教授)

3タイプに分けられる働く高齢者の仕事への取組み

 しかし、働く高齢者の満足度が低い理由は、実はそれだけではありません。まず、そもそも高齢者の働き方は一様ではありません。それは、継続雇用制度が導入される以前からそうでした。多くの人が60歳以降も働いていて、その働き方はまちまちです。働く高齢者の調査やアンケートを行ったところ、それは、大きく3つのタイプに分けることができます。ひとつは、前に働いていた会社から出向や斡旋できたタイプ。ふたつ目は、高齢になってから自らの意思で転職したタイプ。そして3つ目が継続雇用制度を利用して同じ会社で働き続けるタイプです。この中で一番多いのは3つ目の継続雇用ですが、それぞれのタイプによって、仕事や働き方に求める要求も、満足の仕方も異なります。そこでどうすれば、満足度が高まるのか、それぞれに分析しました。

 まず、出向や斡旋できたタイプは、役職に就いているケースが多く、収入も、出向前に比べれば下がっているものの、他のタイプに比べれば良く、恵まれた人たちといえます。この人たちは、職場のまとめ役であったり、役員に就いていることもあり、会社の組織全体の中で自分がどういう立場であり、それを周りがどう受止めているのかを非常に重要視します。したがって、社員たちと信頼関係を醸成することに気を配り、それができれば、満足度が高くなります。このタイプの人にとっては、組織全体についての自分なりの方針とか考え方、新しいアイデアを提示する機会を多く設定してあげることが重要になります。

 高齢になってから転職したタイプは、勤続年数が少ないため、3つのタイプの中では給料が一番低い傾向にあります。しかし、自分にとって仕事のできる会社を選んできているので、与えられた仕事をしっかりこなし、的確な処理ができると満足度が高くなります。このタイプの人に上手く仕事をしてもらうためには、職場の同僚たちと良いコミュニケーションがとれるようにしてあげることです。その中で、仕事の進め方のレクチャーや、業務の問題点、改良に必要なことなどを話し合ったり、その人の能力やスキルを周りの人たちが認識することが重要で、それにより、仕事をスムーズにきっちりとできるような環境につなげることができます。

 最近、増えてきたのが継続雇用のタイプです。多くの場合、定年前に就いていた役職はなくなり、仕事内容も変ります。ところが、あなたはどういうことで会社に貢献しているか、というアンケートを行うと、若手社員の育成や指導で貢献しているという答えが多いのです。つまり、このタイプの人は、決して部下を教育することが仕事ではないものの、自分のもっているノウハウや知識を若手社員に伝えることで働いている満足度が高まるのです。この人たちの多くが、教育のためのスキルを身につけたいという欲求を強くもっており、会社は、そうしたスキルを学ぶ機会を設けてあげれば、やる気が高まると考えられます。しかも、これは会社側にとっても非常に有益です。従来は、若手社員の教育は直属の上司の仕事でした。ところが、リストラや正規雇用の減少により、中間管理職は目の前の実務をこなすのに精一杯で、部下の教育にまで手が回らなくなってきています。その穴を継続雇用の高齢者に埋めてもらうことが期待できるのです。

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