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スポーツビジネスの功罪を考えると、社会の未来が見える

明治大学 法学部 准教授 釜崎 太

スポーツーメディアービジネスの三角形によって「見えにくくなるもの」

 スポーツが、ビジネスとして成立することは悪いことではありません。メディアやビジネスと結びつくことによってスポーツは様々な可能性を見出し、発展していくことができます。しかし、気をつけてほしいのは、メディアやビジネスとの結びつきが強くなるほど、大切なものが「見えにくくなる」という現実です。

 例えば、「観客動員世界一」として知られるドイツのブンデスリーガは、平均観客数が45,000人を超える、わかりやすく言えば、「日本プロ野球の全試合がほぼ満員になる」という驚異的な数字を示しています。この盛り上がりは、直接的には、地上波中継のないブンデスリーガにCS・BS放送が参入したことでスポンサーメリットが生まれ、その資金で人気選手の買い戻しに成功したことや、ドイツW杯資金によって新しいスタジアムが建設されたことなどによるものです。しかし、ビジネスにおいて常に重要になるのは「潜在的ニーズ」の存在です。どんなに企業やメディアが煽っても、そこに顧客のニーズがなければ、ビジネスは成功しません。ドイツの場合、その潜在的ニーズを掘り起こしてきたのが、地域のスポーツクラブだったのです。

 ドイツには、およそ1,000人にひとつの割合で地域のスポーツクラブが存在しています。営利目的のクラブではありませんので、月額数百円から数千円という会費で活動できます。子どもから高齢者まで、余暇活動としてスポーツを楽しむ人からトップの競技者まで、多様な人々が同じクラブで活動しています。クラブハウスでは飲食をしながら会話が楽しまれ、結婚式やお祭りがおこなわれることさえあります。そうしたクラブは市民の自治的活動によって育まれ、公的資金による大規模なスポーツ施設の建設の後に、爆発的に増加してきたのです。

 例えば、日本でも有名なFCバイエルン・ミュンヘンは、サッカーやバスケットボールなど複数のプロチームをもち、ハンドボールや卓球など7つの市民スポーツの部門に幅広い年齢層の人々が参加しています。プロのサッカー部門は、FCバイエルン・ミュンヘン・スポーツクラブを筆頭株主とする株式会社であり、プロバスケットボールはクラブのなかの有限会社です。つまり、公的領域として確立されたクラブのなかに企業が存在しているのです。会員数は実に27万人にのぼりますが、重要なことは、実際のスポーツ活動をおこなわない支援会員が数多く含まれていることです。地方の小さなスポーツクラブにおいても、社交行事(飲食や結婚式)にのみ参加し、ボランティアとして運営を助けている支援会員の役割は小さなものではありません。ブンデスリーガの盛り上がりに注目が集まることで見えにくくなっていますが、このような地域に根付いたスポーツクラブがニーズを掘り起こしてきたからこそ、現在のブンデスリーガの隆盛があるのです。

 スポーツの全てをビジネスにゆだねてしまうと、経営に失敗したクラブや球団は倒産です。あるいは地域的な結びつきなど、ビジネスになりにくい部分は顧みられなくなります。それが私的領域に属するビジネスの性格だからです。日本ではスポーツの公共性や文化芸術性に対する意識は低いと言わざるをえません。スポーツ―メディアービジネスの結び付き方にも一因があります。例えば、1998年の長野オリンピックの後、地元では、オリンピックのレガシーを活かしながら、自分たちのスポーツクラブを立ち上げたひともいました。しかし、そうした取組みが注目されることも、定着し広がっていくこともありませんでした。「メダリストに元気をもらった」というコメンテーターの言葉の陰で、自治的な地域活動の芽は、ひっそりとついえてしまったのです。

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