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「うまくいかなかった経験」にこそ、豊かな示唆が隠されている
2026.08.05

研究の裏話「うまくいかなかった経験」にこそ、豊かな示唆が隠されている

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/研究の裏話【12】

研究の現場では、思いどおりにいかないことのほうが圧倒的に多くあります。私自身も、時間と労力をかけて集めたデータを分析した結果、「はっきりした結論が得られない」「期待していた効果が確認できない」という経験を、これまで何度もしてきました。

私の研究では、政策や情報提供の効果を検証するために、農業者や消費者、場合によっては事業者を対象とした「フィールド実験」を行います。実験室で行う実験とは異なり、現実の人々の行動は必ずしも理論どおりには動かず、慣習、周囲の人々の影響など、さまざまな要因が複雑に絡み合います。そのためフィールド実験では、こうした現実の制約や多様性を含めたうえで、「政策が現場で本当に機能するのか」を確かめることができるのです。

実験にあたっては、先行研究やプレ調査の結果を踏まえ、「このような政策的な介入を行えば、こうした行動変化が起こるだろう」という仮説を立て、その検証のために実験を設計します。人を対象とする研究であるため、関係者との丁寧な事前調整が欠かせません。とくに農家の方々は「実験」という言葉に敏感な方も多く、粘り強く信頼関係を築きながら、協力していただけるように進める必要があります。実験計画が完成し、所属機関内での倫理審査に通過したら、ようやく実験にとりかかることができます。さらに近年では、研究の透明性を高める観点から、どのような実験を行うのかを事前に公表することも一般的になっています。

こうしたプロセスには、年単位の準備期間を要することも珍しくありません。その分、期待していた結果が得られなかったときには、大きな落胆を感じることもありました。実際に、時間と労力をかけて集めたデータについて、統計的な工夫を重ねて分析を行ったものの、掲載要件が厳しい国際学術誌の査読では厳しい指摘を受けたこともあります。査読者からは「It felt a bit like the authors were trying to squeeze blood from a stone.」(著者たちは、石から血を絞り出そうとしているかのように見えた)とコメントされ、無理に結論を導き出そうとしているように受け取られたこともありました。

しかしいくつかの実証研究や論文の投稿を経験して、現在では、「効果が確認できなかったこと自体が、重要な研究成果である」と考えるようになりました。なぜ想定どおりの結果が得られなかったのか、どこに仮説と現実のズレがあったのかを丁寧に検討することで、人々の行動の複雑さや、政策を現場に落とし込む難しさがより深く理解できるからです。データ収集の過程で何らかのバイアスやミスが生じたのではないか、と自分の研究を疑うことも大切です。また、得られたデータを丹念に分析していく中で、当初は想定していなかった新たな発見が得られることも少なくありません。こうした経験から、現在の研究では、データが示す現実を素直に受け止める姿勢を大切にしています。

学術研究の世界では、長らく「きれいな結果」だけが評価される傾向、いわゆるパブリケーション・バイアスが問題視されてきました。その反省を踏まえ、近年では、明確な効果が確認されなかった研究結果(Null Result)も、同様に重要な知見として共有すべきだという認識が広がっています。私はこうした流れの中で、実社会の複雑さを正面から捉え、成功例だけでなく「うまくいかなかった経験」も含めて丁寧に発信していくことが、信頼性のある政策や制度設計につながると考えています。

研究に限らず、人生にはチャレンジして思い通りの成果が得られないことがいくらでもあります。「うまくいかなかった」と思ったときこそ、なぜそうなったのか、自分の期待と現実との間にどんなギャップがあったのか、どうすればうまくいくのかを考えてみてください。次につながる学びを見つけることができれば、そのチャレンジ自体に意味があったと言えるのでないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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